【児童書】『バンブルアーディ』モーリス・センダック作・さくまゆみこ訳
[レビュアー] 村島有紀
■初めて祝う誕生日で…
一度も誕生日を祝ってもらったことのない子豚、バンブルアーディが主人公。8歳で両親を亡くし、やさしいおばに引き取られた。初めて祝う9歳の誕生日のちょっぴり羽目を外した一日が描かれる。
冒頭には8歳までの境遇が示唆される。5歳の誕生日に「6月10日」の看板を掲げたものの両親は気づかない。「しらなかったんだね?」と自らを納得させる様子が痛々しい。
『かいじゅうたちのいるところ』などの作者で、4年前に83歳で死去した20世紀を代表する絵本作家の最後の絵本。オリジナル作は30年ぶりだが、その絵はパワフルのひと言。誕生日に招いた仮装姿の“ともだち”と、どんちゃん騒ぎする様子が圧巻だ。ただ、雰囲気はちょっと不気味。ネグレクトされ、愛情を知らずに育った子供の目に、世の中はこんなふうに映るのだろうかと考えさせられる。
6月10日は著者自身の誕生日でもある。一筋縄ではいかない子供の悩みや葛藤、不安を絵本に託した最後のメッセージをかみしめたい。(偕成社・2000円+税)
村島有紀