『植物はなぜ動かないのか』
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植物はなぜ動かないのか 稲垣栄洋 著
[レビュアー] 小林照幸(作家)
◆根を張り生きる工夫
植物は食物連鎖のピラミッドで最下層の生産者。植物なくして人間も含めた動物は生きられない。動物のように移動できず、環境を変えられない面から私たちは弱々しい印象も抱きがちだ。地球誕生から植物の歴史を考証した本書は、与えられた環境でどう生き抜くか、と臨機応変に進化してきた強さを存分に伝える。
植物の使命は花を咲かせ、果実をつくり、種子を残すこと。被子植物が現在の高等植物の大半を占めるのは、花は昆虫と、果実は鳥類、哺乳類と共生関係を築く戦略的発明に成功したからだ、と著者は述べている。色彩と香りに富む蜜を備えた花は昆虫を誘引する。昆虫は花を飛び回って蜜を食べ、体に付着した花粉が受粉を容易にした。果実は鳥類、哺乳類に食されて種子の移動を実現させた。歯が未発達の鳥類は果実丸のみで糞(ふん)と共に排出し、歯と味覚が発達した哺乳類は果肉を食べても種子は吐き出すのである。
スギやヒノキの裸子植物が花粉症の原因となる花粉を大量にまき散らすのは、風によって受粉する風媒花ゆえ。昆虫の誘引が不要なため、花の色も控えめだ。
雑草も含めて植物は、ただ生えているのではない。その場所で「ナンバーワンでオンリーワン」の地位を、移動ができない中で創意工夫して得た雄姿なのである。専門家の著者だけに、根を張って生きる植物から学ぶ謙虚さも説得力が富む。
(ちくまプリマー新書・886円)
<いながき・ひでひろ> 1968年生まれ。静岡大教授。著書『弱者の戦略』など。
◆もう1冊
D・チャモヴィッツ著『植物はそこまで知っている』(矢野真千子訳・河出書房新社)。視覚・嗅覚など植物の能力を紹介。