赤ん坊が8日以内に死ぬ島、奴隷が置き去りにした島…奇妙な「孤島」ガイド

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赤ん坊が8日以内に死ぬ島、奴隷が置き去りにした島…奇妙な「孤島」ガイド

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

 旅先が島、というとき、わたしたちは陸つづきの場所に行くのとは違う心理状態に包まれる。島の姿が見えてくると、その高揚感は一層強くなる。空間全体は難なく把握できるのに、その奥に謎を秘めているような予感に胸騒ぎを覚えるのだ。

 陸地から遠く離れた五十の実在する島がとり上げられる。ほとんどが名前を知る人すらいない孤島だ。まずは島のかたちに眺め入る。クロワッサン型、こん棒型、緩んだ輪ゴム型、鼠の死骸、内臓の透けたエイ……。形のバリエーションが実に多様で、自然の力でそれらが造形されたことに圧倒される。

 右ページにはその島の説明が載っているが、真っ先に目が行くのは島の人口だ。「無人」とあると心がシンとし、「4人」とあるとその顔が浮かんでくるような気さえする。島の大きさや形から人口を予測するのは不可能だ。小さな島に結構な数の人が住んでいたり、大きくて立派な島なのに、無人だったり。

 だが、それ以上に想像を絶するのは、かつてその島でどんな出来事が起きたかという史実の部分だ。

 生れた赤ん坊が八日以内に死んでいく運命にあった島、座礁した船の奴隷が置き去りにされた島、全色盲の住人がほかより多い島(彼らは夜行性で、夢の記憶力が高いらしい)、漂着した船の乗組員がおびただしい数のペンギンに取り囲まれ、身動きがとれなくなった島、だれも理解できない謎の言葉をしゃべる少年が、長じてその言葉を実際に使っている女性と出会い、結婚して、一緒に暮らすことになった女の故郷の島……。

 ブックデザイナーでもある著者の描いた島の地図は美しく、その対向ページにある人間たちのぞっとする物語を浮き彫りにする。この対照性がすばらしい。枕元に置いて夜ごと島をひとつずつ訪ねていったら、瞼の奥にどんなシーンが浮かび上がるだろう。恐ろしい情景だろうか、のどかなユートピアだろうか。

新潮社 週刊新潮
2016年5月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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