【写真集】トンネルを明るく美的に 『軌道回廊』徳川弘樹
[レビュアー] 産経新聞社
まずは鮮明さに驚く。トンネルなのに隅から隅までくっきり。全体が発光しているようだ。設置された照明灯や取り付け金具が、幾何学的な模様を描き出す。リズミカルな反復が心地よい。
本来は見えないものを可視化したのはデジタル技術。明るさ(露出)を変えて何枚も撮影している。コンピューターを駆使して丁寧に重ね合わせることで、肉眼では捉えられない、闇に沈んでいた世界が浮かび上がってくる。
ページを繰ると、抽象絵画の連作を眺めているような気分になる。一方で、トンネルにもさまざまな形状があることが分かる。線路が、想像する以上にぐねぐねと上下左右に曲がっていることも。
撮影されたのが、特別な場所ではないというのがいい。掲載作のいくつかは許可を得てトンネル内に入ったそうだが、ほとんどは地下鉄駅のホーム端など、日常的に人々が行き来している場所から撮影している。私たちがいつも目にしている景色の中に、こんな美的な風景が眠っているのだ。(実業之日本社・2800円+税)(存)