【児童書】「こわい」を呼び覚ます『えほん遠野物語 やまびと』 柳田国男原作、京極夏彦文、中川学絵

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【児童書】「こわい」を呼び覚ます『えほん遠野物語 やまびと』 柳田国男原作、京極夏彦文、中川学絵

[レビュアー] 安田奈緒美

 河童(かっぱ)や座敷童(ざしきわらし)、神隠しなど岩手県遠野地方に伝わる民話や伝承を柳田国男が記した名著『遠野物語』(明治43年)が原作の絵本シリーズの一冊で、代表的な「山男」「山女」をもとにしている。

 村に住む鉄砲撃ちの名人が、山の中で自分より大きな女に出会う。女を撃ち、髪の毛を切り取って家に帰ろうとするが、大男がその髪の毛を取り返しにやってくる-。

 100年以上前の不思議な物語が、京極夏彦の簡潔な語りによるスピード感ある描写と、気鋭のイラストレーター、中川学が現地取材に基づいて再現した「闇」をはらんだ絵が一体となって現代によみがえる。

 勇猛果敢な猟師たちも「こわい」と思えば、逃げるのだ。その感覚がなければ、厳しい自然を相手にする山での暮らしはつとまらないのかもしれない。

 夜でも煌々(こうこう)と明かりがともり、「闇」と縁遠くなった街に暮らす現代人の私たちにも、「こわい」という感覚が呼びさまされるはずだ。(汐文社・1500円+税)(安田奈緒美)

産経新聞
2016年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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