『交換殺人には向かない夜』
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明文堂書店石川松任店「最高のユーモア・ミステリ!」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
画家の善通寺春彦(有名画家の息子でもある)の妻から夫の不倫調査の依頼を受け、山奥の豪邸に潜入する鵜飼たち。十乗寺さくら(シリーズ読者にはお馴染みのお金持ちのご令嬢ですね)と共に、さくらの友人で女優の水樹彩子の別荘を訪れる流平。閑散とした烏賊川市の旧市街地《鶴見町鶴見通り》で起こった女性の刺殺事件を追う警察。繋がるはずのない三つのストーリーはやがて……。
ということで、烏賊川市を舞台にしたユーモア・ミステリ《烏賊川市》シリーズの長編第四作目に当たる本書(もちろん読み方は自由なので、強制すべきものではないのですが、設定を大きく引き継いでいるため、一冊目から読むことをお薦めします。例えば映画の話とか。以前の作品を読んでいると、さらに会話が楽しくなります)は、タイトルから分かるとおり《交換殺人》がテーマになっています。つまりアレですよ、「お前の嫌いなやつ殺してやるから、おれの嫌いなやつ殺してくれ」っていう、アレ。ドキドキの魅力的なテーマです。そしてテーマは深刻でも、決してギャグやユーモアは忘れない。ただこの笑いの部分が一筋縄ではいかないのです。
計算されたミステリが笑いに奉仕し、計算された笑いがミステリに奉仕する。その果てに待ち受ける結末に、読者は脱帽するしかないのです。ユーモアとミステリが絶妙に絡み合った素晴らしい一冊です。