わずかな可能性を追い続けて謎を解明する執念の旅

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漂流の島

『漂流の島』

著者
髙橋 大輔 [著]
出版社
草思社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794222022
発売日
2016/05/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

わずかな可能性を追い続けて謎を解明する執念の旅

[レビュアー] 鈴木裕也(ライター)

「事件は現場で起こっている」というドラマの名セリフではないが、ノンフィクションは現場に行かなければ成り立たないと思い込んでいた。だが本書は、その「現場」までが非常に遠い。

 本書の「現場」とは、伊豆七島と小笠原諸島の間、東京から五八〇キロ離れた絶海の孤島・鳥島である。江戸時代、この島には何度も日本人漂流民が流れ着いた。ジョン万次郎もその一人である。だが彼ら漂流者が命からがらたどり着いたこの島は火山島で、食料は海藻や貝、アホウドリくらいしかいないばかりか、真水がほとんどない。漂流者が生き延びるためには最悪の環境だった。

 本書はそんな絶海の孤島での漂流生活を生き抜いて帰還した数少ない者たちの長期にわたる壮絶なサバイバル生活を活写するが、それが本題ではない。彼らを生き延びさせる拠点となった洞窟を突き止めるまでの執念のレポートだ。

 探検家でもある著者は二〇〇五年、「漂流記」でおなじみのロビンソン・クルーソーが暮らした住居跡を発見し、世界にその名をとどろかせた。その著者が取り組んだのが鳥島の洞窟の調査だった。

 ところが、この島は絶滅危惧種のアホウドリの生息地として島全体が天然記念物に指定されており、立ち入りは厳重に制限されている。島に上陸した経験がある専門家たちから「溶岩に埋もれて、もう洞窟はない」と言われても、著者は自分の目で確かめるまで諦めない。ついに、アホウドリ生息地の保護活動船に便乗する火山学者の助手として、島に上陸する機会を得る。そこで運よく洞窟を発見するのだが、この洞窟が漂流者たちを支えた洞窟かを特定する調査はできない。何しろ天然記念物の島で、石一つ動かすのにも許可が必要なのだ。

 再調査をことごとく否定されても、自分の判断を信じて徹底的に検証を繰り返し、ついに決定的な証拠を得る著者の執念に、この島で生き抜いた漂流者たちの執念を重ねながら、一気に読了してしまった。

新潮社 新潮45
2016年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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