内田樹、平川克美、名越康文による「居場所論」

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僕たちの居場所論

『僕たちの居場所論』

著者
内田 樹 [著]/平川 克美 [著]/名越 康文 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784047317536
発売日
2016/05/06
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

内田樹、平川克美、名越康文による「居場所論」

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 映画化もされた、浦沢直樹の漫画『20世紀少年』。あの作品の中で、最もこころ惹かれた“場所”は、ケンヂやオッチョたちが原っぱに作っていた「秘密基地」だ。学校とも家とも違う、もう一つの場所。その中で過ごす、仲間たちとの濃密な時間が羨ましかった。 内田樹、平川克美、名越康文による鼎談集『僕たちの居場所論』は、いわば秘密基地での謀議の記録だ。もちろん、「よげんの書」や悪の組織や世界征服が語られるわけではない。話題は、自分らしい場所、つながることの本質、価値観の共有など多岐にわたる。しかも、そこに各人の思い出話がランダムに入ってきたりするので、全体は雑談のようなラフな雰囲気だ。雑談なのに実がある。いや、雑談だからこそ言える話、聴ける話があるのだ。

 書名の居場所について言えば、内田は「凱風館(がいふうかん)」という道場を持つ。平川は東京・荏原中延の商店街に喫茶店「隣町珈琲(トナリマチカフェ)」を開いた。そして名越は東京と福岡で「こころカフェ」「名越康文塾」と名づけた連続講座を行っている。いずれも、彼らにとっての“もう一つの場所”だ。興味深いのは、決して一人になることが目的ではなく、むしろ他者と交わる場所になっていることだろう。また大事なのは、道場や喫茶店といった物理的空間の所有ではないこともわかる。「自分が落ち着ける場所」「居心地のいい場所」があることなのだ。ならば、家族の声が聞こえるリビングの片隅もまた、大人の男の居場所である。

新潮社 週刊新潮
2016年6月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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