『あさきゆめみし』から『寄生獣』まで。知恵と知識が「学べる」マンガはこれだ!【自著を語る】

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『あさきゆめみし』から『寄生獣』まで。知恵と知識が「学べる」マンガはこれだ!【自著を語る】

[レビュアー] 里中満智子(マンガ家/マンガジャパン代表)

里中満智子先生おすすめ その(2)
生命とは何かを問うた傑作『寄生獣』

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『寄生獣』(岩明 均 著)

 ある日、高校生のシンイチの右手に、宇宙から降ってきた謎の生命体「寄生獣」が入り込みます。目玉を持ち、変幻自在にかたちをかえるそれをミギーと名付けたシンイチ。奇妙な共生関係がはじまります。

 そんななか、寄生獣の仲間たちが、次々と人間を襲いはじめます。寄生獣の使命とは、人間という種を食い尽くす、というものだったのです。

 夫のかたちをした寄生獣が、妻の頭をまるごとガブリと食いちぎったり、と画面が恐ろしいです。スパッと鋭利にまっぷたつにされるシーンも登場します。そして、やられた方は、何が起きているかすら分からない。

 寄生獣は、なぜ人間を襲うのか。そこには、人間がいなくなったら、環境問題も解決されるし、地球上のほかの生命が暮らしやすくなるのではないか、という問いかけもあります。

 右手だけミギーに乗っ取られた主人公は、悩みます。自分とは何なのか? かたちとは何か? 生命とは何か?

 われわれは、目、耳、触覚で他者を認識している。それがすべて崩れたときの恐怖心とは、どのようなものなのでしょう。そして、もし自分がそんな状況になったとき、人間はエゴイスティックにもなりえます。あっち側(寄生獣)になってしまって、早く楽になりたいと思うかも知れません。そのとき、あなたはどうするでしょうか。

 とはいえ、不信感だけでは生きていくことはできません。私たちは毎日、意識しなくても、自分と他者の関係について、確認作業を行っているわけです。

 このように、残酷マンガに見えて、じつは哲学的な命題をふくんだ傑作となっています。

文藝春秋BOOKS
2016年6月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

文藝春秋

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