「重力波は歌う」世紀の発見を生んだ人々の波乱のドラマ
[レビュアー] 西田藍(アイドル/ライター)
「地球は宇宙の中にあるんだから、地球に住む私たちも宇宙に住んでいる宇宙人なんだってば」
夕闇が迫る、ある夏の日。小学生の私は近所の子どもたちと言い争っていた。私の主張は一笑に付された。
黒い背景にカラフルな光が瞬く。それが宇宙のイメージで、すべてだった。子ども向け図鑑にはきらきらした宝石のようなイラストがたくさん載っていて、大人になれば、それらの宝石を巡る旅が実現しているはずだと思っていた。でも、宇宙は本当に遠くて、本当に広い。感光板のしみ、小さな数値の変化、宇宙を知るために必要な言語は、大人になった私にも、理解できないものだった。
本書が扱うのは、そんな言語を操る人々が、世紀の発見をするまでの人間ドラマである。すべてを飲み込む重力の落とし穴=ブラックホール同士の衝突は、とてつもないエネルギーを生み出す。しかし、完全な暗闇であるから、光では観測できない。時空の形状の変化――波動――を観測する。時空の動きによって「音」が発生するらしい。この「重力波」を観測するプロジェクトが産声を上げてから半世紀。重力波は検出され、今年、論文発表に至った。太陽の明るさの一〇〇〇億倍の一兆倍分のエネルギーが重力波となって、地球までやってきてくれたのだ。この世紀の発見の全て、そしてその全てに関わる人間を本書は描き切っている。
人が、人の力で聞いた、「音」だ。科学者も、当然ながら同じ宇宙に住まう同じ人間だが、なにかしらの新発見のニュースを見るたび、つい彼らの存在を忘れそうになっていたことに気づく。無知な私も、美味しい宇宙情報を得ることができるのは彼らのおかげだ。ヒトが生存不可能なスケールの世界と、いま、私がこの文章を書いている世界は、人の営みが繋いでいるのだ。
今でも、私は、私たちが宇宙に住まう宇宙人だと、そう思っている。