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キャラも凝ってる!“女性探偵”活躍の3冊
[レビュアー] 若林踏(書評家)
サラ・パレツキーの〈V・I・ウォーショースキー〉に、スー・グラフトンの〈キンジー・ミルホーン〉。一九八〇年代に女性私立探偵小説の書き手が現れブームになって以降、様々な女性探偵が今日まで生み出されている。
サラ・グラン『探偵は孤高の道を』(高山祥子訳)で主人公を務めるクレア・デウィットも私立探偵業を営む女性だ。ただしこのクレア、これまで書かれた女性探偵とは一味違う。
まず探偵になるきっかけが変わっている。ヨーロッパ一の探偵と呼ばれたジャック・シレットが著した探偵術の本『探知』を読み、「シレット派」の一員になるべく探偵修業に励んだのだ。そしてその探偵術も風変わり。夢のお告げや怪しい幻覚剤を使った瞑想からヒントを得て真相に迫る。
シリーズ第二作に当たる本作では、クレアは元恋人を殺した犯人を独自に追う。表面上はタフでも、心の深奥は脆(もろ)いクレア。主人公自身の事件を扱った本作では、その危うい内奥を前作以上に掘り下げ、キャラクターの魅力をさらに引き出している。クレアの見る幻視的な風景や、シレット『探知』からの引用、「シレット派」に属する個性的な探偵達など、どこか浮世離れした描写も良い。私立探偵小説の定型からちょっと外れた作品が読みたいという方にお薦めだ。
さて、日本でも主人公の造形や語りに工夫を凝らした「女性が語り手のハードボイルド」が生まれている。
東山彰良『ミスター・グッド・ドクターをさがして』(幻冬舎文庫)では、医師転職斡旋会社でトラブルバスターの役割を果たす女性が主役。彼女の破滅的な性格が語りに反映され、異様な熱気のこもった連作小説に仕上がっている。
日本ハードボイルド史に残る作品として忘れてはならないのが、永井するみの『カカオ80%の夏』(ポプラ文庫ピュアフル)。夏休みに姿を消した級友を探す女子高校生が主役の、青春ハードボイルドという新領域を確立した傑作だ。著者の急逝によって、シリーズが二作で止まってしまったことが何とも悔やまれる。