「渡辺淳一文学賞」にもの申す! 「賞に冠されるような作家じゃない」〈トヨザキ社長のヤツザキ文学賞〉

レビュー

8
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あこがれ

『あこがれ』

著者
川上 未映子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103256243
発売日
2015/10/21
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「渡辺淳一文学賞」にもの申す! 「賞に冠されるような作家じゃない」

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

 大森望との「文学賞メッタ斬り!」仕事では直木賞における選評のおかしさをあげつらい、『失楽園』『愛の流刑地』『鈍感力』といったベストセラーに対しては批判的な書評を書き続け、勢いで札幌にある文学館まで見学に。渡辺淳一に対し、数々の無礼を重ねてきたわたしではありますが、二○一四年にお亡くなりあそばして以降は、さすがに毒舌を封じておりました。

 が、しかし、文学賞ができたんじゃあ、黙っていられません。わたし個人の感じ方では、渡辺淳一は文学賞に冠されるような名前じゃないからです。それほどの作家じゃない。森鴎外や夏目漱石の名がついた文学賞が現存しないのに、渡辺淳一クラスの小説家の賞を立ち上げる意義は奈辺にありや? 作った集英社の偉い人、教えてプリーズ。

 創設の趣旨は「昭和・平成を代表する作家であり、豊富で多彩な作品世界を多岐にわたり生み出した渡辺淳一氏の功績をたたえ、純文学・大衆文学の枠を超えた、人間心理に深く迫る豊潤な物語性を持った小説作品を顕彰します」だそうな。ふーん。しかしですね、数々の渡辺作品を読んできた上で申し上げますが、故人はその趣旨に沿う作品を書いたことはないように思えますよ。

 花火大会の夜に、挿入後〈夜空に打ち上げられる花火に似て、いきなり下から「どどん」と突き上げ〉〈菊治はさらに二の矢、三の矢と花火を打ち続け〉といった描写(『愛の流刑地』より)を得意とする渡辺作品の特性を活かすなら、「トンデモすれすれなポルノ表現を備えた通俗小説」に対して与える文学賞にするべきでありましょう。

 選考委員は浅田次郎、小池真理子、高樹のぶ子、宮本輝。小池以外は直木賞や芥川賞の選考委員。他にもいないのかと天を仰ぎたくなるのは、わたしだけでしょうか。名誉職を一部の作家に独占させるという傾向は……ムニャムニャムニャ。

 第一回受賞作は川上未映子の『あこがれ』。小学生男女を主人公にした、渡辺作品とは共通点がない小説です。「渡辺淳一文学賞受賞作」だからといってエロ描写を期待しちゃいけない、素晴らしい小説です。

新潮社 週刊新潮
2016年7月21日参院選増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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