『竜と流木』
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『影王の都』
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『竜と流木』篠田節子/『影王の都』羽角曜
[レビュアー] 石井千湖(書評家)
愛らしい生き物が絶滅の危機にあると知ったら助けたいと思う。篠田節子の『竜と流木』(講談社)は、そんな人間の善意が招いた災厄を描く長編小説だ。
主人公のジョージは、アメリカ軍人の父と日本人の母を持つ英会話講師。一年の半分は日本で生活費を稼ぎ、もう半分は太平洋の島で過ごす。子供の頃に出合った「ウアブ」という両生類に魅了され、飼育と研究を続けているのだ。あるとき、ウアブの生息する泉が開発によって干上がることになった。ジョージは仲間と保護クラブを結成し、近隣の島にあるリゾート施設の池にウアブを移す。ところが、ウアブは大量に死に、謎の黒トカゲが出現して人間を襲うようになってしまう。ジョージは自分たちが原因を作ったのではないかと怯えながら、対処法を模索するが……。
ウアブの背中は淡いベージュ色で腹は半透明のピンク、輪郭はカワウソとそっくりで、目は黒くつぶら。おまけにハーブに似た芳香を放つという。人々が守りたくなる気持ちもよくわかる、神秘的でかわいい生き物だ。一方、黒トカゲは禍々しい姿で人を咬み、激痛を与え、口内の毒によって死にいたらしめることもある。対照的なふたつの生き物の関係が明らかになったとき、驚愕すると同時に、なんともいえない切なさが湧き上がってくる。タイトルの由来は島に伝わる神話だが、現代の流木が何か明らかになるくだりにも震撼した。人間の営みは自然の生態系の分かちがたい一部であることを思い知らされる。
羽角曜『影王の都』(創元推理文庫)は、第一回創元ファンタジイ新人賞選考委員特別賞受賞作。水晶を握りしめて生まれた美しい少女リアノは、両親を失い、兄も家を出て行って、ひとり村はずれで暮らしていた。ある日、大きな物音が聞こえたので扉を開くと、雪の上に髑髏(どくろ)が落ちていた。言葉をしゃべる髑髏に導かれ、リアノは砂漠へ旅立つ。砂漠には薄明の時刻になると忽然と現れる〈影の都〉があった。
なぜ髑髏は砂漠に行きたがっているのか。リアノにかけられている呪いとは何か。
〈影の都〉と関係があるのか。謎に引っ張られ、どんどんページをめくってしまう。しゃべる髑髏と少女の会話も楽しい。黒瑪瑙の壁、トルコ石とラピス・ラズリが嵌めこまれた大門、薄めた葡萄酒色の長い髪とエメラルドの瞳を持つ娘……。異世界の描写も色彩豊かで魅せられた。〈影の都〉に喚ばれた娘と少年、リアノと夢のなかの男、富豪の屋敷に愛玩動物として飼われている美少年たちなど、いくつもの愛と憎しみの物語が絡まり合うところも面白い。
終盤に明らかになる世界の仕掛けには驚いた。書きたいことをありったけ、自由に詰め込んだのだろう。デビュー作ならではのパワーがみなぎっている。