鉄道ファンならずとも気になる! JR九州会長が綴った“躍進”の秘訣

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鉄客商売

『鉄客商売』

著者
唐池恒二 [著]
出版社
PHP研究所
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784569829197
発売日
2016/05/24
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

鉄道ファンならずとも気になる! JR九州会長が綴った“躍進”の秘訣

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 豪華客船クルーズに憧れる人は多い。そして当然シルバー世代が主だが、多くの日本人がその夢を達成している。それを陸に持ってきたらどうか? そうして始まったのがJR九州のクルーズトレイン計画で、三十年後の現在、その列車は“ななつ星”の名で九州を走っている。

 著者は旧国鉄に入社した。JRと名を変えた頃メキメキと頭角を現し、JR九州大躍進の一翼を担う。社長を経て現在は会長だが、本書で携わった仕事の数々に触れているものの、なぜか自慢話の匂いがない。それは自ら書いていることと、折々に忍ばせるユーモアによるものだろう。つまり気配りの人でもあるのだ。

 著者にはネーミングの神様との異名があるという。JR九州が展開する列車、船、飲食店舗のほとんどの名付親なのだ。SL「あそBOY」(一九八八年)、特急「ゆふいんの森」(一九八九年)、高速船「ビートル」(一九九〇年)、レストラン「気どらない洋食屋さん」(一九九三年)、レストラン「イテキエ」(一九九六年)、居酒屋「うまや」(一九九六年)、特急「はやとの風」(二〇〇四年)、特急「九州横断特急」(二〇〇四年)、特急「指宿のたまて箱」(二〇一一年)、特急「A列車でいこう」(二〇一一年)、そして真打がクルーズトレイン「ななつ星in九州」(二〇一三年)なのだ。

 私は旅が多いだけの落語家で、鉄道オタクではないが、それでも行ってみたい店や乗ってみたいものばかりだ。特に七両に十四組限定というななつ星には大いにそそられるが、その料金と当選倍率の高さにはビックリだ。でもせめて十四代酒井田柿右衛門の洗面鉢は使わずとも拝みたいものだとは思うのだ。

 熊本を中心に大きな地震が襲った。そのため本書の刊行を遅らせたと追記に著者は綴る。そこへ九州全体に台風やゲリラ豪雨が追い打ちをかける。鉄道ファンと関係者の切ないため息が聞こえるようだ。

新潮社 週刊新潮
2016年7月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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