最近、再び増殖中の“日本スゴイ” その原点は?

レビュー

30
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「日本スゴイ」のディストピア

『「日本スゴイ」のディストピア』

著者
早川 タダノリ [著]
出版社
青弓社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784787220653
発売日
2016/06/30
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

最近、再び増殖中の“日本スゴイ” その原点は?

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

「ディストピア」とはユートピアの反対語。理想郷じゃない場所のことだ。「日本スゴイ」ならユートピアなんじゃないの?と思いながら読みはじめると、戦時下に行われたプロパガンダによって洗脳された日本人の姿に戦慄させられる。言葉の力は強大だ、+に働いても-でも。

 本書は昭和初期から終戦までに出版された当時の「日本スゴイ」本の中から、「日本主義」「礼儀」「勤労」など、現代にも通ずる日本礼讃キーワードごとに、膨大な数の本を吟味していく。こんなことが大真面目に語られていたのかと驚くばかりである。

 そもそも「日本スゴイ」のネタの原型はどこにあるのか。探っていくと見つかったのは週刊新潮の版元、新潮社が出していた月刊総合雑誌「日の出」であった。

 満州事変を契機とする日本の国際連盟脱退を受けた「日の出」一九三三年十月号には「世界に輝く日本の偉さはこゝだ」という特別付録が付いていた。地球上で全く孤立無援となった日本の国難を突破するために、自らへ誇りを付与しなければならない、という言わば白人・西洋コンプレックスの裏返しでもあったのだ。

 特集では、立派な日本人、海外で活躍する日本人、美術や工業製品への海外からの賞賛、肉体的自慢、日本が持つ世界一の記録が紹介されている。昨今のマスコミ、特にテレビ特番と全く変わりがない。

 礼儀正しく勤勉な日本人には、最後にきっと神風が吹く、と煽りに煽った戦時中の本は、終戦で灰燼に帰したはずだった。無力感の中から、確かに日本人の美徳である生真面目さや猪突猛進によって今の日本が築き上げられたのは間違いない。

 だが自らを「スゴイ」と言う人が本当に凄いことはほとんどない。美しさや賢さは外から見て認められてこそ、である。日本人自ら「日本は美しい、素晴らしい」と繰り返す政策や風潮はまず疑うべきだろう。日本人の美徳には「謙虚」もあるのだから。

新潮社 週刊新潮
2016年7月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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