『玄冬の門』
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『青春の門』を出て到る“最後の門” 高齢期を生きるヒント
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
中国で古くから使われてきた人生の区分がある。青春、朱夏、白秋、玄冬の4つだ。玄冬はいわゆる高齢期、老年期にあたる。
五木寛之『青春の門』(講談社文庫)の第1部「筑豊篇」が刊行されたのは1970年のことだ。そして現在83歳の著者が『玄冬の門』を上梓した。
中身は高齢期や老年期を生きるヒントだ。ただし、趣味を広げるとか、コミュニティへの参加とか、ましてや死ぬまでトキメキといった話ではない。むしろ逆だ。素の自分と向き合い、いくつかの覚悟をもって生きようという提言である。
覚悟は4つ。人は本来、孤独である。頼りになる絆などない。人間は無限に生きられない。そして、国や社会が自分の面倒をみてくれるとは限らない。その上で著者がすすめるのは家庭内自立、再学問、妄想、趣味としての養生、楽しみとしての宗教などだ。
特に、家族に甘えようとせず、孤独を嫌がらないこと。むしろ孤独の中に楽しみを見出す。孤独の幸せ感を覚えよう、といったアドバイスが印象に残る。できれば、“玄冬の門”をくぐる以前から、精神面においても独りでいることのレッスンやトレーニングを積んでおくことが必要だろう。
読後、著者の『大河の一滴』(幻冬舎文庫)を読み返したくなった。しかし、「一生という水滴の旅を終えて、やがては海に還る」は、あくまでも著者が思うストーリーだ。今はそれぞれが“自身の物語”を持つべき時代かもしれない。