『白球アフロ』
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明文堂書店石川松任店「王道の青春スポーツを読め!」【書店員レビュー】
[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)
弱小野球部に入部してきたクリス(身長190cm近くの長身を持つアメリカと日本のハーフ)の教育係を任されていたチームメイトの《俺》は、送りバントの必要性を感じていないクリスに送りバントをさせるためにある行動を取る。クリスはチームに溶け込むようになり、チーム内はうまく行き始めていた。しかしその矢先の合宿中に事件が起こる。
本書は王道の青春小説である……と、書くと、アメリカから来た転校生が救世主のように現れ、弱小チームを優勝に導くという展開を想像されそうだが、そういう作品とはすこし違っている。本書は悩み苦しむアメリカからの転校生の野球部員の教育係となった《俺》が四苦八苦する話であり、物語の外見だけ見ればちょっと変わっている。しかし部内で起こる人間関係のいざこざ、甘酸っぱい恋など、そこにあるのは素直な気持ちで浸れる王道の物語だ。この言葉を使う時には常に躊躇いがあるのですが……、その青春のひたむきさに、すこし泣きました。
本書では「犠牲(サクリファイス)」という言葉が重要な意味を持っています。近藤史恵にも『サクリファイス』というタイトルのスポーツ(自転車競技)小説の傑作があるように、否定するにしろ肯定するにしろ、この精神はスポーツ(特に複数人で行うもの)を語る上で避けては通れないのかもしれません。