『金子兜太 いとうせいこうが選んだ「平和の俳句」』
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金子兜太 いとうせいこうが選んだ「平和の俳句」
[レビュアー] 中島京子(作家)
◆せんそう見すえる五七五
私も東京新聞(中日新聞東京本社発行)を購読しているので、毎朝一句、目にする。すでにして名物連載企画だが、二〇一五年の一月一日から始まったのだそうだ。このまま、小さな「平和運動」が、何年、何十年と続いていくことを願う。
平和を思う気持ちを短詩に読み込んで投稿するこの企画の面白さは、下は三歳の子どもから、上は百六歳の戦争体験者までを、広く平等に巻き込んだことだろう。季語は入れても入れなくてもかまわない。平和への思いが入っていればよい。日本の誇る短詩文芸五・七・五のリズムは、たいしたものだと思う。これほど日本人に根づいた詩の形式はなく、誰でも作れて、奥が深い。いくつか抜粋して鑑賞したい。
・平和とは一杯の飯初日の出(浅井将行・18歳)
まさに「平和の俳句」の真髄(しんずい)を見せてくれる、ユーモラスで気持ちのいい元旦の句。
・戦争はすべての季語を破壊する(二村吉光・87歳)
空爆を受けて廃墟(はいきょ)になったシリアの街の映像を見た。敗戦時の東京のモノクロームの写真にそっくりだった。夏だか冬だかもわからなかった。それを思い出した。
・荒南風(あらはえ)や天気予報のある平和(安藤勝志・73歳)
天気予報がある日々は、平和なのだ。戦時には軍事情報として秘密にされたのだという。なんでもない日常のありがたさに気づかされた。
・十五歳散りし彼らと鬼百合と(橋本真梨子・16歳)
詠んだのは、かつて零戦基地のあった愛知県安城市の高校生。特攻機で散華した若い兵士を思う夏の風景に「賢者」の花言葉を持つ鬼百合が鮮烈。
・さべつとか、いやなきもちがせんそうだ (斉藤詩歌・8歳)
深く胸を打ったのは、8歳のミューズのこの句だった。ほんとうにそうだ。戦争はいつも、そこから始まる。
(小学館・1080円)
本紙朝刊に連載中の「平和の俳句」で昨年1年間に掲載された句を収録。
◆もう1冊
樽見博著『戦争俳句と俳人たち』(トランスビュー)。山口誓子、加藤楸邨らを軸に戦時下の俳人たちが何を考え、何を詠んだかを探る。