明文堂書店石川松任店「心が震える、哀切な時代ファンタジー!」【書店員レビュー】

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明文堂書店石川松任店「心が震える、哀切な時代ファンタジー!」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

《市五郎と桂香とで仕上げた絵は、死者の絵だった。だが、幸せな、死者の絵だ。》
時は江戸時代、何よりも絵を描くことを好み周囲からは《変わり者》と揶揄される外川市五郎は、存在するはずのない赤い山百合を探して訪れた上川村で、忌み子と疎まれ、伝説に語られる座敷童のように生きる童女《桂香》と出会う。そして一緒に暮らし始めた二人のもとに訪れた妻を喪った恩人から、妻の姿絵を描いて欲しい、と依頼される。市五郎は彼女を一度も見たことがなかったが・・・・・・。
生死の境をたゆたうような独特で静謐な世界の中に、ほっとするような懐かしさがあります。作品自体は、決して明るい物語とは言えません。詳しくは書きませんが、物語の後半、惑い続けた青年の悲愴な覚悟を持った決断(それは手放しで賞賛できるようなものではありません)とその哀切なラストには胸が締め付けられそうでした。ただ、著者のその時代や人々に向ける眼差しが優しいからなのかもしれませんが、作品内に漂う暗さや陰惨さに不快感を持つことはありませんでした。とても好感の持てる作品です。
広範の人を惹きつける魅力を持った作品だと思いますので、時代小説が苦手、あるいはファンタジーが苦手という人にも是非とも読んでもらいたい作品です。

トーハン e-hon
2016年7月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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