明文堂書店石川松任店「不朽の名作があまりにもすごくて……。」【書店員レビュー】

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明文堂書店石川松任店「不朽の名作があまりにもすごくて……。」【書店員レビュー】

[レビュアー] 明文堂書店石川松任店(書店員)

財界、政界、海外に顔がきく著名なK大学史学部の番匠谷教授が、高校の同窓であるN大理論物理研究所の大泉教授(浮世ばなれした彼は《隠者》と呼ばれ、その研究内容は妄想狂とかげ口をたたかれるほど評価されていなかった)と助手の野々村に見せたものは、《上の砂溜めの砂はいっこうにへらず、下の砂溜めの砂は、少しもふえない》という果てしなくこぼれおちる砂時計だった。上部白堊紀の中から発掘されたその砂時計について調べるために出土された古墳へと向かった番匠谷教授たちは、異様な出来事に遭遇する。そして関係者たちは次々と悲劇に襲われていく。……と、ここまではほんの始まりに過ぎません。ここからあまりにも壮大な物語が展開していきます。
『継ぐのは誰か?』『日本沈没』などで知られるSF界の巨匠・小松左京の代表作のひとつとして有名な名作『果しなき流れの果に』(ちなみにぼくは初読でした。申し訳ない!)が書かれたのは、1965年のこと。解説(作家の大原まり子氏です)には、《この作品が、今から三十二年前、一九六五年に書かれたなどということが、信じられるだろうか?》とあります。その解説が書かれたのは、1997年。今は2016年……。なんとその解説から、ほぼ19年の月日が経ち、本書は半世紀を超える風雪を耐えたわけです。そして半世紀以上経った今も、本書は衰えることなく光り輝いているようです(当時の輝きを知らない人間がこんな言葉を使って良いのかは分かりませんが……)。
知識量が圧倒的に不足している人間(正直に告白すると、理解できてない部分も多々あります)にあれやこれや語る力はないので、素直な気持ちを伝えることにします。とにかく面白かった。奇妙な始まり、壮大なテーマとストーリー、切ない余韻、未知の世界をリアルに感じさせてくれる知識と想像力……。そのすべてに興奮しました。
H・G・ウェルズの名作「タイム・マシン」が発表されてから一世紀以上経っていますね。いまだに広く愛されています。きっと本書もそんな存在になっていくのでしょう。

トーハン e-hon
2016年8月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

トーハン

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