[本の森 医療・介護]『代体』山田宗樹/『ボタニカル』有間カオル

レビュー

9
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代体

『代体』

著者
山田 宗樹 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041041260
発売日
2016/05/26
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ボタニカル

『ボタニカル』

著者
有間 カオル [著]
出版社
一迅社
ISBN
9784758048248
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『代体』山田宗樹/『ボタニカル』有間カオル

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

「肉体は魂の乗り物に過ぎない」

 山田宗樹『代体』(角川書店)の冒頭の言葉だ。身体が傷つくと苦しみが生まれる。その苦しみや痛みという意識を他に移して仕事をし、からっぽの肉体だけを治療できたら効率的ではないか。

 その発想が実現した近未来の物語が本書である。仕事を最優先させなければならない要人たちが、高い代償を払っても意識だけは社会生活の中に置きたい。そのために開発されたものが「代体」と呼ばれる人造人体である。

 セラミックの骨格と人工筋肉で構成され、医師の管理下で専門の医療技師が意識の転送をはかる。いわゆるアンドロイドの代体は本人の自我イメージにより、頭部は自分の顔が3D映像として投影され、手足もほぼ自由に動かすことができる。治療を待って意識はまた元の肉体に戻されるが、その期限は脳デバイスや人工筋肉を動かすエネルギーユニットの容量の限界である約三十日。エネルギーが無くなると同時に意識も消失する。不老不死化を規制するため、ユニットの交換は認められていない。

 この技術革新には目覚ましいものがあり、各社が鎬を削っている。その中の一社、タカサキ・メディカルの営業マン八田は、ある日自分の担当した代体が失踪するという事件に会う。消えた代体の意識はどうなるのか。八田はその謎を追う。

 巨大な利権が絡み、国家的な思惑によって操作される代体事業。しかしその奥に潜むのは、開発者の恐ろしい企みであった。

『百年法』に続き、著者が挑むのは人とは何か、命はどこに宿るのかという大命題である。果たしてこの未来は本当にやってくるのか。首筋がひやりとする物語である。

 人間だけでなく植物にも医師がいる。樹木医と呼ばれる人たちは、植物に適した環境を整え、健やかな成長を見守っている。有間カオル『ボタニカル』(一迅社)の若き女性樹木医の雨宮芙蓉は、植物だけでなく人の病気をも診る特殊な医師である。

 人が植物に寄生されてしまう珍しい病気、それは「ボタニカル病」と呼ばれている。研究者は少なく、国立国際医療研究センター病院の心療内科医、朝比奈匡助の依頼を受け、新種の植物をさがして世界を飛び回る父の代わりに、芙蓉は患者に取り付いた植物を同定し、原因を探る役割を負っている。なぜその植物に取り付かれてしまったのか、理由は人それぞれだ。

 彼女の元を訪れたのは、口から梅の花を吐き出す少女や、水にぬれると花弁が透明になる山荷葉を付けたイマジナリーフレンドと遊ぶ5歳の少年。百年に一度花を咲かせる竜舌蘭が開花間近な庭を一人で守る老婆など、芙蓉の診立てでボタニカル病の患者たちは心の健康を取り戻していく。

 ボタニカル病に罹るのは悲しいことか、それとも人と植物がお互いに幸せになるためか。なぜ心療内科医が関わっているのかという謎が最後に明かされる。大きな木に触りたい、そんな衝動に駆られる一冊だ。

新潮社 小説新潮
2016年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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