『ミュージカル史』
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【聞きたい。】小山内伸さん 『ミュージカル史』
[文] 飯塚友子
今や日本で上演される舞台の6割をミュージカルが占めるといわれる。海外の人気作品を個別に紹介したガイド本は多数あったが、源流である18世紀の先行芸能まで遡(さかのぼ)り、社会的歴史的背景も含め、最新作までを“線”で紹介した、ブロードウェー・ミュージカル通史だ。
「各作品の歴史的意味を考え、上演当時、何が新しかったのか、流れに配慮した。今のミュージカルは、これら歴史的技術の集積でできていますから」
人種差別など社会性を盛り込んだ「ショー・ボート」(1927年)や、歌やダンスが物語と一体化した「オクラホマ!」(1943年)、トニー賞を独占した「ハミルトン」(2015年)まで最新トレンドも盛り込んだ。
名作「ウエスト・サイド・ストーリー」(1957年)も、初演時は評価が高くなかったなど、日本で映画や翻訳作品だけを見ていては分からない情報も網羅した貴重な一冊。専門書だが、文章が読みやすく、何よりミュージカル愛にあふれている。
「若い頃は小劇場ファンでしたが、1986年からロンドンに在住し、旬のいいミュージカルを見て開眼してしまった。89年に新聞社に入社後も、休みを利用してはロンドンとブロードウェーに通い続けました」
演劇記者となり、1千本を超えるミュージカルを国内外で見続けた。3年前の退社を機に、半年かけて海外で集め続けた膨大な資料やCDと向き合い、執筆に1年を費やした。ファンとしての愛情、評論家としての客観的目線、専門家の知識を注ぎ込んだ。歴史的文脈でミュージカルを俯瞰(ふかん)できると、読者としても新たな興味がわく。それこそが本書の狙いだ。
「日本でもミュージカルは30年近く親しまれ、成熟の時代。日本のファンは細分化され、特定の舞台しか見ない傾向がありますが、もっと広がりが生まれたらいい、という願いを込めています」(中央公論新社・1800円+税)
飯塚友子
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【プロフィル】小山内伸
おさない・しん 昭和34年、青森県出身。朝日新聞記者を経て演劇評論家、専修大准教授。著書に『進化するミュージカル』。