『箸はすごい』
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箸(はし)はすごい エドワード・ワン 著
[レビュアー] 原田信男(国士舘大教授)
◆特殊な道具 広く考察
私たち日本人にとって、箸は食事に不可欠の道具である。しかし世界的にみれば手食が全体の四割を占め、欧米などのナイフ・フォークと、中国を中心とした東アジアの箸がそれぞれ三割を占める。
本書は、考古学や文献史学の成果を踏まえ、箸の歴史や役割を、中国や東アジアの食文化との関連から論じている。とくに箸という食事用具は、食材や料理のあり方と深い関係にあると指摘する。
もともと中国でも、手食と匙(さじ)・箸とが併用されていた。そして箸よりも匙の方が早く、ミレット(雑穀)の粥(かゆ)に用いられていた。やがて、漢代頃から小麦が普及すると、箸が食事用具の主役となった。それは饅頭(マントウ)・包子(パオズ)や麺などの粉食には、箸の方が適していたからだとする。
また、肉や野菜を適当な大きさに切って炒める料理法の発達も、箸の普及を促したという。さらに箸が、朝鮮や日本・ベトナムに普及した過程と変容をも考察の対象とし、箸文化圏全体の特色を検討している。
こうした箸が、現在、アジア料理とともにナイフ・フォーク文化圏にも広がっているという指摘もおもしろい。評者としては、史料出典と参考文献の示し方や、いくつかの歴史認識に若干の不満は残るが、箸という多少の修練を要する特殊な食事道具がもつ意味を、多角的に考察した興味深い一書と評価できよう。
(仙名紀訳、柏書房・2376円)
<Edward Wang> 1958年、中国上海生まれ。米ローワン大・中国北京大教授。
◆もう1冊
向井由紀子・橋本慶子著『箸』(法政大学出版局)。箸の誕生から種類・習俗、日本文化との関係などを総合的に紹介。