『私の消滅』
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渕書店 BOOKSTORE FUCHI 「書かれていないかもしれない小説というイメージ。」【書店員レビュー】
[レビュアー] 渕書店 BOOKSTORE FUCHI(書店員)
いやおうなく暗くて大きな波に背中を押されるように読者は物語世界に入り続ける。
物語は精神分析を骨格にして込み入った構造を持ち、読者は簡単にはその輪郭を得ることがむずかしいと思う。作者の意図したようには読めなかった読者であったかもしれない。しかし、そうでなくても作品全体を覆う印象は明らかで、一様に暗い。読んでいる最中その文章に全く陽があったってない感じ。いや、もしかしたら注意深く読めば読むほど登場人物達が誰なのか分からないように作者は仕掛けているのかもしれない。つまり謎解きなど要らないのかもしれない。切れ切れに組み込まれた事象から読者がそれぞれ物語を組み立て作品から得る何らかを感じればそれで本作品は価値を持つのかもしれない。それはともかく、後半に向かって歯を食いしばって読み、読み終えた後、深い溜息を漏らしてしまった。そして、ある読者にとってはこの暗い痛々しい物語が救いとなるかもしれないと思った。もちろん理解できなくてもいいし作品から離れている方がいい、のかもしれない。