『上方漫才黄金時代』
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上方漫才黄金時代 戸田学 著
[レビュアー] 八木忠栄(詩人)
◆芸に生涯捧げた作家
映画やラジオで俳優として活躍していたエンタツ・アチャコが本来漫才師であったことを、評者は高校時代に初めて知った。二人のしゃべくり漫才が誕生したのは昭和五(一九三○)年、と著者は書く。翌年に秋田實はエンタツに初めて会い、漫才作者の道を歩むことになる。
本書は秋田實にはじまって、晩年の彼に終わる漫才通史である。そもそも秋田實を抜きにして上方にかぎらず漫才(かつての黄金時代)を語ることはできない。アジ・プロ小説を書いていた左翼青年は漫才作者になったばかりでなく、上方漫才界に充実と輝きをもたらした。全身漫才の人だった。
「秋田は、漫才と漫才作家の育成にその生涯を捧(ささ)げた」と著者。ミヤコ蝶々・南都雄二、中田ダイマル・ラケット、かしまし娘、夢路いとし・喜味こいし、レツゴー三匹ほか、評者などを長年ワクワクさせたお馴染(なじ)みの芸人たちが入れ替わり登場する。秋田は陰に日向(ひなた)に彼らを育てることに邁進(まいしん)した。本書ではその台本の一部も引用され、懐かしい臨場感が再現されている。
漫才作者にとどまらず、プロデューサー、評論家、教師としても、漫才の発展に惜しまず尽力した秋田實の言葉の一言が、心に深く残った。「私の人生は漫才人生や。漫才を忘れてるのは、机の上で漫才を書いてるときだけ
(岩波書店・2808円)
<とだ・まなぶ> 1963年生まれ。作家。著書『上方落語の戦後史』など。
◆もう1冊
相羽秋夫著『漫才入門百科』(弘文出版)。漫才の歴史、一九六○・八○年代のブーム、演者や作家などのガイド本。