『世界史としての日本史』
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本物の教養とは? 半藤一利×出口治明の歴史雑談
[レビュアー] 楠木建(一橋大学教授)
出口治明という人に最初に会ったとき、その教養の広さと深さに圧倒された。深い湖を縁から覗きこんでいるようで、何やら恐ろしい気分になったほどだ。
古今東西の歴史に通暁した出口と、「国民的日本史家」とでも言うべき半藤一利。『世界史としての日本史』は、本当の教養人による上等上質な歴史雑談。面白くないわけがないが、実際に読者の期待を裏切らない。
軸となる主張はカバーに掲げられた「『日本は特別な国』という思い込みを捨てろ」。この惹句だけだと、日本は他国と変わらない国だという話に聞こえるが、そうではない。日本は独自の歴史を経て今に至る。もちろん、その在りようは他国と異なる。しかし、それは他国も同じこと。要するに、日本が特殊なのではなく、すべての国は個別的なのである。
異なる国の個別性を十分に踏まえたうえで、他者を相対化し、自らを理解する。ここに歴史的教養の本領がある。そのためには先入観に左右されないニュートラルな視点が大切だ。物事に対して正面から素直に構える姿勢、これが教養練成の起点にある。
歴史的教養は一朝一夕では身につかない。「真の『教養』が身につく」という本書の売り文句はもちろん嘘である。しかし、少なくとも、本物の教養とは何かを見せてくれる。そして、それ以上に無教養とはどういうことかを教えてくれる。世界が転換期にある今こそ、読む価値がある一冊だ。