【写真集】カメラを置いて見えてくるもの 『マザー・テレサと神の子 新版』小林正典

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【写真集】カメラを置いて見えてくるもの 『マザー・テレサと神の子 新版』小林正典

 1948年、インドはコルカタのスラムで活動を開始したマザー・テレサ(1910~97年)は、路上で孤独のうちに死んでいく人々を見過ごせず、52年にカリガートに「死を待つ人の家」を開設、亡くなるまで「神の子」のために祈り、献身的に活動した。

 79年、ノーベル平和賞を授与された彼女には世界中のマスコミから取材の申し込みが殺到する。が、貧しい人々の悲惨な状況を表面的に伝えるだけで、彼らの内面に興味を示さないマスコミに対して嫌悪感を募らせていく。小林氏が最初に彼女の取材を敢行したのはそんな最中の81年だった。ある神父の仲介で取材許可がおりたのだ。ところがマザーハウスで、にこやかに貧しい来訪者に対応する彼女に「いつ撮影が可能か」と小林氏が尋ねるや、彼女は顔をこわばらせて「あなたもカメラを置いて、彼らの手をとってみたら」と拒絶する。

 自身の未熟さに気付いた小林氏はカメラを置き、「死を待つ人の家」で1カ月以上も人々と直接向き合う。やっと姿を現した彼女は小林氏に極上の笑顔を向ける。本書は、カメラを置いて初めて見えてきた「何か」が収められた写真集である。(ビレッジプレス・2000円+税)

産経新聞
2016年9月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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