来年で500年迎える宗教改革 知的遺産受け継ぎ成果練り上げた「正統主義者」たち

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来年で500年迎える宗教改革 知的遺産受け継ぎ成果練り上げた「正統主義者」たち

[レビュアー] キリスト新聞社

 宗教改革500周年を来年に控えてプロテスタント教会が動く中、正統主義についての本格的な入門書が世に送り出された。
 改革派正統主義は、本書の時代区分でいえば宗教改革者カルヴァンの後、1560年ごろから1790年ごろの期間を指す。「スコラ主義」という言葉によっても表現されるこの時代は、従来、黄金時代である宗教改革期からの逸脱や堕落として捉えられてきた。日本においても、この時代の研究の蓄積は少ない。
 本書はそのような俗見を鮮やかに覆し、正統主義という時代が「後代のあらゆるプロテスタント神学の橋がよりかかる橋台」として重要な意義をもつことを示す。
 叙述は「研究の現状」から始まり、「スコラ主義」が特定思想の〈内容〉ではなく〈方法〉に関わるものであることを確認する。通史ではアリストテレスまで遡り、アウグスティヌスと中世、そして初期・盛期・後期と三つに分割される正統主義の時代を、歴史的背景や人物の詳細な紹介に至るまで丁寧に追っていく。
 詳細な文献表や読書ガイドが付されているのも大きな特徴。研究の際のトピック選び、一次文献の収集法などの情報も盛り込まれており、教科書・入門書としての行き届いた配慮が見られる。
 宗教改革は思想史的な真空で生じたのではない。改革者たちは中世からの知的遺産を受け継ぎ、正統主義者たちはその成果を自分たちの時代の中でさらに練り上げていった。いま求められているのは、歴史を〈断絶〉ではなく〈連続〉において描き出す方法である。
 訳者もあとがきで述べているように、「本書の出版が、わが国の正統主義研究の変化と進展の先駆けとなること」が期待される。

キリスト新聞
2016年9月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

キリスト新聞社

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