『室町無頼』
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既成の歴史観をくつがえす、今年度ベスト必至作!
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
「おい、読み終わったかい?」
「ああ、思った通りの大傑作さ。今年のベスト10に入ることは確実だ。この作品が本誌に連載されはじめたとき、私はいかん、と思った。もちろん、駄目という意味じゃないよ。こんな面白いものを毎週、少しずつ読まされたら欲求不満になってしまう。単行本にまとまってから読もうと思ったわけさ」
「辛口の君にしては大絶讃じゃないか。で、テーマは何だい」
「この世に生きとし生けるものすべてが、納得のいく人生を歩めますように、というこの本は祈りの書だ。無頼の意味もそこにある」
「無頼が?」
「そう。無頼という意味を一面的にとらえちゃ駄目だよ。また、だから説明もしにくいんだけど、これは読者一人一人に読んで確かめてもらいたいんだが―」
「おや、急に無責任になったね」
「そういうわけじゃないんだけどね。じゃあ、ぎりぎり、本書の仕掛けが分からない程度にストーリーを紹介するとだね。まあ、主だった主人公は二人いる」
「主だった?」
「うん。骨皮道賢(ほねかわどうけん)と蓮田兵衛(はすだひょうえ)だ。君に問われる前にいっておくと、二人とも実在の人物だ。但し、これまで小説で書かれたことはない。前者は幕府から洛中の治安維持を任されているが、その裏で土倉(金蔵)を襲撃する極道の頭目なんだ。一方、蓮田は、牢人と洛外の村落をまとめて、一揆を起こそうとしている。そしてこの二人をつなぐ若者・才蔵が抜群にいいんだ。あぁ、それから君好みのいい女も出てくるしね」
「それだけじゃ分からないなぁ―」
「だからいっただろ。自分で読めって。とまれ、応仁の乱前夜の状況はもっとひどい有様で現代の格差社会と二重写しにされ、蓮田の起こした相国寺(しょうこくじ)大塔での一揆の場面なんぞ、これまで歴史・時代小説で描かれてきた一揆の概念を根底からくつがえしてしまっている。何ごともはじめてづくしの小説なんだって―」
「こりゃ読まなくちゃなぁ」
「それから私は思ったね。この作品は柴田錬三郎の『眠狂四郎無頼控』以来、“無頼”の二文字が最もふさわしい小説だとね。それから―」
「どうした?」
「すまんが、今日はもう帰ってくれないか。この作品のあまりに素晴らしい結びの文章を読んでもう一度泣きたくなったんだ」
ドアが閉じられ、やがてその向こうからすすり泣きが聞こえてくる。