『「建築」で日本を変える』
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「建築」で日本を変える 伊東豊雄 著
[レビュアー] 市川紘司
◆地方をフィールドに
東日本大震災以後、日本の建築が変わりつつある。「建築」という存在を、単体の建築物から、それが拠(よ)って立つ地域やコミュニティ、あるいは竣工(しゅんこう)前後の市民ワークショップやイベント活動等までを含みこむ、より広く大きなものとして再定義する潮流が生まれている。平たく言えば、建築の「社会性」を問い直すこと。この流れは日本に限らず、世界各地の建築に同時多発的に現れている。
伊東豊雄は、こうした近年の建築の思想をめぐる潮目の変化を体現する建築家だ。震災を契機に、被災地の復興計画や小さな集会所の設計等、それまでの作風とは打って変わる社会的プロジェクトの実践の方へ、大きく舵(かじ)を切った。
本書は、そんな伊東が現在、岐阜、愛媛、長野、茨城で進めている四つのプロジェクトを紹介する。共通するのは地方というフィールドだ。「都市を向いた建築の時代は終わった」と宣言する伊東は、人と密に交流しながら、その場に固有の文化や自然環境と調和した建築をつくる可能性が残る地方にこそ、建築の未来があると言う。とりわけ愛媛・大三島(おおみしま)での活動が興味深い。美術館の設計に始まり、私塾の塾生や外国人学生との調査研究、空き家の保存活用、果てはワイナリーの創業まで。従来の建築家の職能を飛び越える様々な活動を通じて、地域に貢献する建築の在り方が模索されている。
(集英社新書・778円)
<いとう・とよお> 1941年生まれ。建築家。著書『あの日からの建築』など。
◆もう1冊
五十嵐太郎編『地方で建築を仕事にする』(学芸出版社)。地方で多彩な建築に取り組む挑戦者たちのエッセー集。