鉄道唱歌と地図でたどる あの駅この街 今尾恵介 著
[レビュアー] 原口隆行
◆線路でつながる今昔
国文学者で当代随一の売れっ子だった大和田建樹が作詞した『地理教育 鉄道唱歌』第一集「東海道編」が世に出たのは、一九〇〇(明治三十三)年五月のこと。この冊子は発売と同時にたちまちベストセラーになり、その年の内に第二集「山陽・九州編」、第三集「奥州・磐城編」、第四集「信越・北陸編」、第五集「関西・参宮・南海編」と立て続けに刊行された。歌詞はすべて七五調で、曲は読者が好みで歌えるよう二曲ずつつけられていた。
本書はこの五編に一九〇六年八月に刊行された『北海道唱歌』の「南の巻」「北の巻」を加え、当時の駅や沿線のたたずまいを、文に地図を添えて今に蘇(よみがえ)らせたものである。
一読、今昔の感を新たにさせられた。とはいえ、この時代の「昔」を評者は知らないから、そこは想像を働かせるしかなかったが、本書を通して「昔」と「今」がすべて地続きで繋(つな)がっていることを実感、百年以上もの過去を現在と対照させて臨場感たっぷりに偲(しの)ぶことができた。
また、一連の「鉄道唱歌」シリーズには地理だけでなく、戦争や天変地異などの事象も含めて、土地土地の歴史や名所、産物なども歌い込まれているが、そのあたりにも十全に目配りを利かせており、読む楽しさを倍増させている。
気が向けばいつでも再読できるよう、常に手元に置いておきたい一書である。
(朝日新聞出版・1620円)
<いまお・けいすけ> 1959年生まれ。地図研究家。著書『地図入門』など。
◆もう1冊
中村建治著『「鉄道唱歌」の謎』(交通新聞社新書)。鉄道唱歌がヒットした理由を歌謡史や世相を背景に考察する。