『不思議なウィーン』
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不思議なウィーン 河野純一 著
[レビュアー] 青山孝徳
◆歴史ある街を謎解き
『月刊ウィーン』誌連載の記事百選。犬の捕獲人や死刑執行人、服飾令やカエルの像、共同トイレや牛の目ガラスなど、あまり知られない「もの」と「こと」を通して、ウィーン(とオーストリア)の歴史をたどり、市井を描く。
一九三八年三月、ヒトラーのドイツがオーストリアを併合し、多くのオーストリア人がこれを歓迎した。では『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐はなぜマリアや七人の子供と亡命しなければならなかったのか? 大佐が反ナチスだったことはわかるが、映画は詳しく説明してくれない。謎解きの手がかりは、パーティで大佐が首に付けていた撞木(しゅもく)型十字の記章。これは「オーストリア・ファシズム」と呼ばれる、当時の体制の象徴。大佐はナチス・ドイツに抵抗した権威主義体制の支持者として、ナチスに追われ、逃れて行くのである。
「コーヒーの種類」では十四種の名が挙がる。シュヴァルツァーはブラックコーヒー、ブラウナーは少しミルクを加え、メランジュはミルクとコーヒーが半分ずつ…。では、マリア・テレジアはどんなコーヒー? まずは先の三つだけでもカフェの敷居がかなり低くなるのでは。
話題はウィーンの街、衣食住、音楽、建築、季節と自然、交通と通信に及び、興味が尽きない。どの話からでも楽しく読み始められる本である。
(平凡社・2376円)
<こうの・じゅんいち> 1947年生まれ。横浜市立大名誉教授。著書『ウィーン遺聞』。
◆もう1冊
P・ホフマン著『ウィーン』(持田鋼一郎訳・作品社)。モーツァルトなどの才能を生み、悲劇を経験した都を描く。