チンパンジーの暮らしを見続け、“人間とは何か”を知る

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ヒト―異端のサルの1億年

『ヒト―異端のサルの1億年』

著者
島 泰三 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784121023902
発売日
2016/08/19
価格
1,012円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「サル」を観察して「ヒト」を知る名著

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 人間とは何か。この問いに立ち向かうにはさまざまなルートがある。遺伝子を解析する、化石を発掘する、宗教や芸術を研究する、などなど。しかし著者にとっては、「ひたすらにサルを観察する」ことがそのルートだ。島泰三『ヒト―異端のサルの1億年』は、情熱あふれる名著である。

 ゴリラやチンパンジーの暮らしをただじっと見続ける。その「見方」のなみなみならぬ熱意は、きっと読者に伝染する。大型の霊長類の生態はおどろくほど人間に似ているが、「ヒト・サル共通」の特徴をひとつひとつ知ることで、やがてサルからヒトへとつながる「われわれの歴史」が映画のように目の前にたちあらわれる。

 ゴリラの母親がわが子を抱き取ったり、自分の体にのせてあやしたりするとき、母親ははっきりと「ほほえむ」。子どもも「笑う」。大きなオランウータンは、何分間もの長い歌を、樹上でのびのびと「歌う」。それらの行動にふれ、心に刻み込む。それはほとんど、文化人類学や民俗学のように見える。

 1億年前、インドとマダガスカル(当時はくっついていた)で霊長類は生まれた。2000万年前には、アジアの失われた大陸スンダランドで、類人猿がどんどん進化する。やがてアフリカに到達した仲間たちから、ヒトは生まれた。この壮大な絵巻物が、力強い仮説を輝かせながら読者を誘惑する。「われわれの歴史」をこのように描くことも可能なのである。

新潮社 週刊新潮
2016年10月20日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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