優れた人ほど質問力が高い? 「良い質問」をするコツとは

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

「良い質問」をする技術

『「良い質問」をする技術』

著者
粟津, 恭一郎
出版社
ダイヤモンド社
ISBN
9784478067956
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

優れた人ほど質問力が高い? 「良い質問」をするコツとは

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「良い質問」をする技術』(粟津恭一郎著、ダイヤモンド社)の著者は、「エグゼクティブコーチ」。その仕事をひとことで説明するなら、おもに大企業の経営者に「質問をする」ことなのだそうです。2~3週間に一度、「コーチング・セッション」という時間をとってもらい、一対一で質問をし続けるのだとか。

超多忙なエグゼクティブに定期的に時間をとってもらい、ひたすら質問をし続けて報酬をいただくーーどうしてこのような職業、関係性が成り立つのか。
その理由は、1つです。「良い質問には、自分と周囲の人々の人生を、より良い方向へ変える、大きな力がある」からです。
(「はじめに」より)

そして、そんな経験のなかから実感するのは、「成功者」と呼ばれる人ほど、自分と他人に「良い質問」を投げかけているということなのだといいます。つまり、非常に高度な「質問力」を備えているというわけです。

そもそも私たちは、心のなかにある質問をスイッチとして行動を起こしているのだそうです。自分に質問を投げかけ、答えを出し、その結果として行動しているということ。ただし、毎日「同じ質問」だけを投げかけていれば、人生は変化することなく過ぎて行くだけ。これまでと違う人生を手に入れるためには、これまでとは違う質問を自分に投げかける必要があるというのです。

世の中で「すごい」と言われる人は、「良い質問」を次々に作ることができるからこそ、ずば抜けた成果や実績を出せている。だとすれば、優秀な人がもつ「良い質問をする技術」を手に入れることができれば、誰もが優秀な人になれるはずです。(「はじめに」より)

つまり、それが本書のコンセプト。第3章「『良い質問』をするコツ」から、具体的なメソッドを確認してみましょう。

言葉以外のメッセージをやりとりする

「良い質問」をするためにいちばん大切なことは、相手の話を「聞く」ということ。そして、質問相手に心から関心を寄せ、真摯に話を聞く態度と行動のことを、著者は「アクティブ・リスニング」と呼んでいるのだといいます。日本語に訳すると「傾聴」となるそうで、カウンセリングや看護の現場などで、クライアントや患者さんの発言を否定せず、丸ごと受け止めて聞くということ。しかし著者は「質問して聞くこと」を、こうした「傾聴」のニュアンスよりもさらに動的なものとして捉えているのだそうです。

「聞く」という行為は、一方的に発信されたメッセージを受信するだけに、受身な行動だと思われがち。しかしそうではなく、相手の話に注意深く耳を傾け、同時に言葉の「背後にある思い」や「本当に伝えたい心情」に真剣に向き合うこと、そして相手にもフィードバックを伝え、気づきを深めていく積極的な姿勢を、「アクティブ・リスニング」という言葉に込めているというのです。

そこで、著者はエグゼクティブ・コーチングのセッションを行う際、全身で、相手が発する「言葉以外のメッセージ」を聞き取ろうとするのだといいます。相手から返ってくる質問に対する答えそのものよりも、声のトーンや声の大きさ、話すスピード、姿勢や表情といった言葉以外のメッセージのほうが、雄弁に気持ちを物語っていることは珍しくないからだというのがその理由。

その人が話した「言葉そのもの」を聞くのは、むしろ当然の話。しかし、それに加えて「話し方」や「言葉に込められた感情」にも注意を払う必要があるということです。だとすれば当然、質問をする自分の表情や姿勢にも意識を向ける必要があるはず。どんなに「良い質問」であっても、否定的に見える表情や態度をしたのでは、ネガティブなメッセージが相手に伝わってしまうからです。

ちなみに著者の経験上、一対一で質問するときにベストな姿勢は、相手から見て右側か左側のどちらか少し斜め前に座り、机を介して1メートルほどの距離でしっかり向かい合うことだそうです。(106ページより)

質問は流れに合わせてその場で考える

「良い質問」をする際の、技術的なことの基本は「質問は流れに合わせてその場で考える」ということだといいます。事前に紙に書いて準備しておいた質問を、クライアントの前で順番に繰り出していくというのは、よくありがちな失敗。なぜなら「あらかじめ準備した言葉」は、相手の心をとらえないから。

かといって準備が無駄だというわけでないものの、いざセッションがはじまったら、リストよりも、その場の流れや展開を重視すべきだということ。当然ながら「用意していた質問事項をひとつも使わなかった」というケースも出てくるでしょうが、それでいいというのです。ひとつの質問をして、相手から深い答え、広がりのありそうな答えが返ってきたら、そこから派生して次々に質問をしていけばいいのだから。

そして、そのときに大切なのは手元に置いた「メモ」だそうです。会話のなかで次の質問のキーワードになる言葉が出てきたら、必ずそれをメモしておく必要があるというのです。メモをとらずにいると、相手の発言が長引いたときに、途中でなにを聞こうと思ったのか、忘れてしまうことがあるから。

なお取材や面接、商談などで、相手の話した内容をメモすることに注力している人も少なくありません。が、著者のおすすめは、自分がその瞬間に思いついた質問や、質問するためのキーワードを優先してメモすることだそうです。「良い答え」は、「良い質問」があってこそ生まれるものだということ。(109ページより)

いろいろな質問をその場で考える方法

ただ、「質問を流れに合わせてその場で考える」といわれても、それは決して簡単なことではないでしょう。「会話」や「雑談」をテーマにしたベストセラー本が多いことからも、「自然な流れで会話をする」ことに苦手意識を持っている人が多いことがわかると著者はいいます。

でも「会話」や「雑談」ではなく、「質問」と考えれば気持ちは楽になるはず。なぜなら質問は、お互いが対等に近い立場で、自分の疑問や関心をベースとして相手に投げかけていけばいいものだから。

そして、いろいろな質問をその場で考える際、注目すべきは5W1Hだそうです。たとえば「売上の数字がなにより大切だ」という社長がいたら、「いつから、そう思うようになったのですか?」「売上を決めるキーパーソンは誰だと思いますか?」「売上の数字を上げるため、もっとも重視しているものはなんですか?」と、ある程度5W1Hに沿って繰り返し聞いてみるべきだというのです。

そうすれば、詳しく聞きたいことが必ず出てくるので、さらに「その信念が経営にもたらすメリットはなんですか?」「社員にはどれくらい思いが浸透していると思いますか?」と、いくつもの角度から質問を投げかけてみるといいそう。また、5W1Hのうち、ひとつだけを連続して掘り下げて質問してもいいのだとか。(112ページより)

質問はしても、アドバイスはしない

著者は原則として、質問はしてもアドバイスはしないようにしているそうです。「こうしたほうがいい」というアドバイスは、そのときは役立つかもしれないけれど、同じような状況で再び使えるとは限らないもの。いわば多くの場合、アドバイスには再現性がないというのです。

だから、アドバイスを受け入れて実行したとしても、それはあくまで「受け身」。その人自身が考え抜いた結果からくる行動ではないので、成長にはつながりにくく、場合によっては、アドバイスをくれる人に頼り切ることにもなってしまうのだといいます。それどころか、失敗した場合には、アドバイスをくれた人のせいにされる危険性も。

一方、質問によって、その人自らが気づきを得た場合は、大きな成長を期待できるはず。そして「良い質問」を手に入れ、内在化できるようになった人は、その問いを自分のなかでブラッシュアップしていけるといいます。すなわち「良い質問」は、良いアドバイスよりも「一生もの」になりやすいということ。

とはいっても著者はアドバイスのすべてを否定しているわけではなく、それが有効なケースもあると認めています。新入社員に仕事を教えたり、専門的な技術を部下に学ばせることなどがそれにあたりますが、つまりは「使い分け」が大切だというわけです。

手取り足取り教えたほうがいいのか、それとも相手に考えさせ、気づきを促したほうがいいのか、その判断は、相手が置かれている状況、自分との関係性によっても変わるということ。

ひとまず「自分の意思に従って動いているレベルの部下」を育てたいなら、アドバイスのほうが即効性はあるでしょう。しかし「自分よりもはるかに成長してほしい」というような希望があるのなら、あるいはそういう段階になったら、アドバイスで答えを与えるのではなく、質問によって気づきを促したほうがいいと著者は主張しています。(114ページより)

「『良い質問』とはなにか?」という基本的なことがらにはじまり、質問の種類、果ては「『良い質問』の作り方」まで、本書では質問に関するさまざまな解説がなされています。だからこそ、「質問力」をつけたいという方には格好の内容だといえるはず。ぜひ、手にとってみてください。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2016年10月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク