特異な人生経験が導く「読みの深さ」

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プリズン・ブック・クラブ――コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年

『プリズン・ブック・クラブ――コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』

著者
アン・ウォームズリー [著]/向井和美 [訳]
出版社
紀伊國屋書店
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784314011426
発売日
2016/08/29
価格
2,052円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

特異な人生経験が導く「読みの深さ」

[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

 冒頭の「登場人物紹介」に目が吸い寄せられる。薬物、故殺、発砲、恐喝、銀行強盗、コンビニ強盗……。これらの罪を犯した受刑者が、この本で描かれるブック・クラブの、選りすぐりのメンバーである「読書会大使」たちだ。

 著者はカナダの雑誌記者アン。友人で、〈刑務所読書会支援の会〉代表のキャロルに誘われて、二つの刑務所読書会に参加し、そのようすを一冊のノンフィクションにまとめた。

 キャロルとアンのコンビがいい。キャロルはとてつもない善意と行動力の持ち主で、複数の読書会を次々に立ち上げ、活動資金を集めていく。成功の基準を非常に高いところにおいて、なかなか満足することがなく、著名作家を読書会に招いたり、Eメールで質問に答えてもらったりもする。読書会「卒業生」の出所後の面倒まで見ることもある。

 対するアンは内省的で控えめだ。かつてロンドンで路上強盗に襲われたトラウマを抱えており、読書会参加すれば自分の中に植え付けられた恐怖心と向き合わざるをえない。彼女が徐々に恐怖を克服する過程も書き込まれる。

 読書会で取り上げられる本がいい。『ユダヤ人を救った動物園』『第三帝国の愛人』といったすぐれたノンフィクション、スタインベックの『怒りの葡萄』、O・ヘンリー『賢者の贈り物』といった古典のほか、メンバーの意見や反応も見ながら、評判の現代小説、暴力や虐待を扱った本を一緒に読むこともある。

「この読書会がすごくおもしろいのは、自分では気づきもしなかった点をほかのやつらが掘り起こしてくれるからさ」とあるメンバーが言うように、一冊の本について、さまざまな角度から検討が加えられ、思いもしなかった評価が引き出されてくる。その読みの深さは、内省する時間の長さにもよるだろうし、一般市民は知ることのないきわめて特異な人生経験をしてきた人たちだからなのかもしれない。

 カナダを代表する作家マーガレット・アトウッドの傑作『またの名をグレイス』を読んだときの、「物語のなかに読者を連れていってくれるんだ、アバターみたいにね」という表現は面白いし、「ひねりがあるともっとよかった」と大胆不敵な注文をつける人も。ノンフィクションであると同時に、未読の本はむろん、既読の本はもう一度読みたくなるすばらしいブックガイドにもなっている。

 別のメンバーは、「長い獄中生活で正気を保ってこられたのは読書のおかげ」とも言う。読書の箴言、と言いたくなることばをもうひとつ。「本は追いかけてきちゃくれない。こっちから追いかけないと(略)シドニィ・シェルダンなら向こうから追いかけてきてくれるけど」

新潮社 新潮45
2016年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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