『九十歳。何がめでたい』
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【話題の本】『九十歳。何がめでたい』佐藤愛子著
[レビュアー] 産経新聞社
■痛快な言葉に背筋伸びる
急所をズバリとついてくる金言に、何度も膝を打つ。来月には93歳となる作家の、豊富な人生経験が光る痛快なエッセー集。8月に刊行され、9刷35万部に達した。
今の世に、著者はあきれ、怒っている。「『マイナンバー』スマホで利用」という新聞記事はちんぷんかんぷん。デパートのトイレに入れば、水の流し方が分からない。昔のようなハンドルも、ボタンもない。あげく〈なんだってこうわけのわからんものを作るのだ〉と怒る(この挿話のオチは最高!)。問題は機器の進化だけではない。「子供の声がうるさい」と保育園新設への反対運動が起きていると聞けば、〈騒音は生活が平和で豊かで活気が満ちていてこそ生れる〉とピシャリ。空襲警報下の恐ろしい静寂を経験したからこそ出てくる言葉だ。文明の進歩と引きかえに、謙虚さや忍耐心といった人間の精神力はどんどん失われているのでは? そんな危機感が文章の端々ににじむ。
「言いたくても言えないことが書かれていて胸がすく、という感想が多い。それだけ閉塞(へいそく)感に覆われた時代なのかも」と担当編集者。含蓄のある言葉にうなずき、笑い、本を閉じたとき、すっと背筋が伸びる。(小学館・1200円+税)