『最強の身体づくり : 24時間疲れない! : 誰でも歩くだけで同僚と差がつけられる』
- 著者
- 木村, 匡宏, 1979-
- 出版社
- ワニブックス
- ISBN
- 9784847095061
- 価格
- 1,430円(税込)
書籍情報:openBD
ビジネスバッグは薬指で持つ? 疲れを持続させないための身体づくり
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『24時間疲れない! 最強の身体づくり』(木村匡宏、 田邊大吾著、ワニブックス)の著者が所属する「IWAアカデミートレーナーチーム」とは、シアトル・マリナーズで活躍している岩隈久志投手が共同オーナーと監修を務める、スポーツに関するプロフェッショナルが集結したスポーツアカデミー。
さまざまな年齢層から支持されているのは、パフォーマンスを上げる多くのメソッドを持ち、効果的にわかりやすく施すトレーナー陣、マネジメントチームがあるからなのだといいます。そして本書は、ビジネスパーソンに向け、メジャーリーガーも実践する身体づくりのノウハウを伝えたいという思いから書かれたもの。
本書で紹介するビジネスパーソンのパフォーマンスを上げる体づくりには、ある”動き”を活用いたします。それは、”歩き”です。
なぜかと申しますと、ただでさえ忙しくビジネス界で活躍されているみなさまには、運動するためにわざわざ時間と労力を使うのは、至難の業。(中略)そこで、誰もが移動手段として活用する”歩き”にフォーカスし、歩く動きに磨きをかけることで、いい身体づかいが身につき、気分も整えてしまおうというのが本書に込めた提案です。(「はじめに」より)
きょうは「きれいな歩き方」に焦点を当てた第2章「パフォーマンス改善! きれいな歩き方が好循環を生む」に焦点を当ててみたいと思います。
あらゆる運動に活かせる4つの動作感覚
著者によれば、身体の調整、そして動作の調整をしていくときには、「揺する・振る・通す・回す」という4つの動作感覚を使うことが重要なのだそうです。
まず「揺する」という動作感覚は、体を整えていくうえで非常に大切。固まった身体にはストレッチがいいという考え方が常識になっていますが、ストレッチよりも安全に、筋肉を痛めることなく緩めるためには、「揺する」動作がとても有効だというのです。
たしかにあらゆる競技において、順番待ちをしている選手が、身体のあちこちを揺すって動かしているシーンを見ることがあります。そんなところからもわかるとおり、「揺する」という動作には、身体を短時間で整える効果があるのだということ。だから、エクササイズをしていて「ちょっと疲れたかな」と感じたら、特に、手や足の末端部、肩周りを中心に揺するといいとか。
「振る」は、手先、足先を加速するときに使う動作感覚。バッティング、ピッチング、テニス、ゴルフ、陸上、柔道、ボクシング、フェンシングなど、「振る」感覚を使うことであらゆる競技のパフォーマンスを上げることが可能。汎用性の高い感覚だといいます。
「通す」は、全身に意識を通す、呼吸を通す、気を通すなど、やはり重要な動作感覚。動きっぱなしの子どもにも効果的で、たとえば姿勢よく挨拶をする練習などの際、呼吸を通し、背筋を通し、肋骨の脇を両手で軽く押さえるイメージを持つことで、姿勢が整ってきれいに立てるようになるのだそうです。
そして「回す」は、サイクル運動のイメージ。走る動作は、脚が効率よく回転するかどうかで良し悪しが決まるもの。颯爽と歩きたければ、肩甲骨が体幹部の動きと連動して回ってくると、歩きの動作がスムーズになって心地よい歩きを実現できるのだといいます。(52ページより)
疲労への正しいアプローチ 回復・強化・実践
疲労の定義とは、著者によれば「長時間、無理がかかる姿勢でいるために起きるもの」。全力疾走してヘトヘトになり倒れ込んだ選手は「疲れている」のではなく、そうした一過性の疲れは「消耗」と表現すべきだという考え方。それは、寝て、食べて、時間が経てばもとどおりに戻るものであり、場合によってはより成長することのほうが多いケースもあるといいます。消費とはあくまでも、一時的なものに過ぎないということ。
しかし疲労は、そういうものではありません。たとえばいつも重いカバンを左肩にかけていたとしたら、腰が痛くなってしまうかもしれません。以後はカバンの持ち方に注意するとしても、寝て、食べて、時間が経てばもとどおりになるとは限らないわけです。なぜなら、重いカバンという原因を取り除いたからといって、筋肉の緊張が緩和されるかどうかはわからないから。
こういう疲労に対して著者が行うことには、3つのステップがあるといいます。第一に、回復フィールドとして、疲労している部位に運動をさせ、疲労をほぐすこと。次に強化フィールドとして、バランスを回復し、緊張で凝り固まっていた筋肉をちゃんと使えるようにすること。そして最後は実戦フィールドとして、よりスムーズに歩けるよう、実戦的な身体の使い方を指導すること。
つまり、「疲労は運動したから感じるのではなく、運動をしないから感じる」という事実が重要な意味を持つということ。家でなにもしないでゴロゴロしていたり、スマホをいじったりしている人は、なにもしていないにもかかわらず疲れがとれていないと感じるもの。しかし実際には、30分でも1時間でも外を歩いてきた人のほうが、疲れがとれているものなのだそうです。(62ページより)
正しい椅子の座り方
腰痛で悩むビジネスパーソンは少なくありませんが、特に多いのはデスクワークの方ではないでしょうか? パソコンの画面や書類を見つめ、そのような対象物に入り込んでいると、姿勢が固まっていることにも気付きにくくなるというのです。
また、呼吸も浅い状態が続いて、知らず知らずのうちに息を詰めるようにして時間を過ごしてしまいがち。また、腰への負担を避けようとして、「なんとなく楽な姿勢」で座ることは少なくありませんが、そうやって崩した姿勢のまま固定すると、きつい腰痛の原因になってしまうのだそうです。
そこで、まずは長時間同じ姿勢をキープしてしまったとしても腰への負担が少ない、基本の座り方をつくることが大切だと著者は主張しています。といっても難しいことではなく、小学生のときに習った「お行儀のよい座り方」をすればいいというのです。
具体的には、お尻を深く腰掛け、おへそを前に突き出すようにすればOK。そうすれば安定した腰骨の上に背骨がまっすぐ立ち、頭も自然な状態で収まるのだそうです。腰骨を建てた座り方をしていれば、腰痛リスクを大幅に減らせるということ。
ただし、きれいな姿勢だったとしても、同じ姿勢をキープし続けることが疲労につながってしまうことも。そこで時間の経過を忘れてしまわないようにタイマーを使うなど工夫して、定期的に身体を動かし、筋肉や関節の凝り固まりを予防することが大切だといいます。
ちなみに、このような座り方を教育者の森信三氏が「立腰」と名づけ、それが幼児教育の現場などで活用されているのだそうです。その結果、子どもたちの自発性を引き出し、頭の働きを活性化させる効果も実証されているのだそうです。
しかし著者は、あえて逆の提案もしたいというのです。目と頭はしっかりと集中力をキープしながら、全身は常に動かしておくというもの。もちろん対人対面の状況でやるわけにはいかないでしょうが、環境が許す限り、常に身体を揺すったり、回したり、降ったりしていれば、それだけでリラックスした状態になり、パフォーマンスにも好影響が出るというのです。(82ページより)
ビジネスバッグは薬指で持つ
ビジネスパーソンの健康管理を考えるうえで、重要な意味を持つのがバッグです。姿勢や体の負担だけを考えれば、リュックのような両肩で背負うタイプがベスト。逆に身体に負担がかかるのが、片側だけ肩に下げるタイプのショルダーバッグ。特に「たすき掛け」で肩にかけると、片方の肩にだけ大きな力がかかるため、バランスをとるために無理な力がかかってしまうそうです。
ショルダーバッグのデメリットは、重いものを肩にかける点。肩に重みがかかるとそちらの肩が下がるので、直立するためのバランスをとる必要に迫られるわけです。しかし、その状態をキープするには無理な力が必要。せめて左右の肩を交互に掛け替えてほしいといいますが、現実的にそれを実践することは少ないはず。「曲がった骨格+無理な力」に慣れてしまい、身体がその状態でバランスをとることを覚えてしまっているからだといいます。
ビジネスバッグであれば、ショルダーコートを外し、もっぱら手持ちカバンとして使うのがいいそうです。それでも片側に負担がかかってしまいますが、大きく違うのは、簡単に左右に持ち帰られる点。本人が意識すれば、バランスの偏りを避けられるわけです。
カバンを手持ちするときに重要なのは、薬指で持つイメージ。実際には薬指をセンターにした3本の指、または薬指と小指の2本でカバンの取っ手を持つのですが、意識としては薬指1本だけ、または薬指と小指の2本で持っている感覚だそうです。こうすれば無駄な力を入れることなく、楽にカバンが持てるわけです。(84ページより)
歩き方の基本からエクササイズの方法までを、全般的に網羅した内容。すぐに実践できるので、とても役立つ1冊だと思います。疲れにくい身体をつくるために、ぜひ読んでみてください。
(印南敦史)