同級生の死の分岐点を探る青春ミステリ『分かれ道ノストラダムス』深緑野分
[レビュアー] 円堂都司昭(文芸評論家)
米軍のコック兵を主人公にすえ、第二次世界大戦中の欧州を舞台にした『戦場のコックたち』で注目を集めた深緑野分。新刊『分かれ道ノストラダムス』はガラッと雰囲気が変わり、女子高校生を主人公にした青春ミステリになっている。様々な時代の少女を描いた『オーブランの少女』がデビュー短編集だった著者にとっては、新作のほうが本来の持ち味に近いのかもしれない。
空から恐怖の大王が降ってくるとノストラダムスが予言した一九九九年。高校生のあさぎは、中学の時に急死した同級生・基の日記を受けとる。基の件を未だに受けとめきれていない彼女は、彼が死なずにすむ分岐点があったかもしれないと、現在の同級生・八女君の助力を得て日記に可能性を探し始める。一方、予言通りに世界の終末がくると信じる新興宗教団体アンチ・アンゴルモアが、不穏な動きをみせていた。あさぎたちも、それに巻きこまれていく。
世界が終わるかもしれないと、未来への分かれ道を示されて動揺する人々がいる。それに対し、あさぎは、基がもし生きていてつきあったなら、すぐ喧嘩して別れたに違いないと考えたりする。未来に向けていくつも分かれ道があるように、過去の分かれ道を想像することはできる。しかし、並行世界が実在しない以上、いくら別ルートを想像しても過去は変わらない。変えられるはずの未来と対比して語られる、過去の変えようのなさが切ない。考えれば考えるほど、自分がしたこと、起きてしまったことのとりかえしのつかなさが、恐ろしくなる。人の不安につけこむ悪人もいる。主人公のヒリヒリした感情が痛いほど伝わってくる作品だ。