TVドラマ化も果たした大人気シリーズ・怪盗探偵「山猫」第5弾は、謎のお宝「猿猴の月」をめぐる極上エンタメ

レビュー

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怪盗探偵山猫  月下の三猿

『怪盗探偵山猫 月下の三猿』

著者
神永 学 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041039083
発売日
2016/09/30
価格
1,296円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

謎のお宝「猿猴の月」をめぐる極上エンタメ

[レビュアー] タカザワケンジ(書評家、ライター)

 狙うのは億単位の巨額。それも悪どいやり方で貯めこんだお金に目を付け、失敬するついでに悪党を懲らしめる。怪盗探偵山猫が胸のすく活躍を見せるシリーズ第五弾である。

 ある日、山猫が根城にしているバー「STRAY CAT」に少女、サツキがやってくる。父から、「猿猴の月」を探し出すため、山猫を頼るようにと言われたからだ。しかし、猿のお面をかぶった男たちの襲撃を受け、サツキは連れ去られてしまう。同じ頃、火災現場となった工場から、銃創のある死体が見つかる。掌には三匹の猿が手をつなぎ、円になっている模様が彫られていた。

 サツキが探している「猿猴の月」とは、分不相応なものを手に入れようとして自滅することの意でもある。猿が井戸の水面に映った月を手に入れようと手を伸ばすが、つかむことができずに落ちて死んでしまったという故事から来ている。怪盗にとっては不吉な言葉だが、それが今回のターゲットである。山猫に課せられたのは、「猿猴の月」とは何なのかを解き明かし、そのありかを見つけ手に入れること。そのミッションだけでもハードルが高いのに、山猫の前には、宿敵である警察のみならず、猿のお面の男たちが立ちふさがる。その結果、窮地からの脱出と、アクションが存分に描かれた快作となった。

 ここで、これまでのシリーズを振り返っておこう。第一作の『怪盗探偵山猫』は山猫の登場篇。山猫が雑誌記者の勝村と出会い、交流を持つきっかけになった事件が描かれる。勝村はその後、山猫のワトソン役として重要な役割を果たすことになる。第二作の『虚像のウロボロス』(副題。以下同)は、正義の味方を気取るハッカー「魔王」と、夜の街で犯罪者を狩る「ウロボロス」との三つどもえを描き、さらにスケールの大きな作品となった。強烈な個性を発揮するはみ出し刑事、犬井が初登場した作品でもある。同時に短篇集『鼠たちの宴』を刊行。姉の死の真相を探る女性、透視能力を持つと自称する男性、失踪したバンドのリーダーを捜すギタリストの女性、山猫の過去を知る男がそれぞれの作品に登場するなど、バラエティに富んだ物語を展開。続いて中篇三篇を収録した『黒羊の挽歌』では、ベネチアンマスクをつけた凄腕の女子高生、黒崎みのりが活躍するなど、作品一冊ごとに新しい試みに挑戦し、怪盗探偵山猫の世界に厚みを加えてきた。

 タイトルロールでもある山猫は、高い身体能力を持ち、神出鬼没。まさしくヒーローである。しかし、このヒーロー、憎まれ口を叩くわりに抜けたところがあって愛嬌がある。たとえば、しばしば鼻歌を歌いながら登場するのだが、破壊的な音痴なのだ。一方で、ワトソン役の勝村の「平凡さ」もシリーズに貢献している。取材者として山猫を追い始めた勝村だが、やがて山猫にシンパシーを覚えるようになる。「盗み」にこそ加担はしないが、山猫の敵に対しては、ともに戦う。山猫によって事件に巻き込まれるたびに、勝村が少しずつ成長していくのもシリーズを読むうえでの楽しみである。

 勝村は山猫との出会いによって新しい自分を発見しつつあるとも言えるのだが、一方の山猫も、実は少しずつだが変わってきているのではないかと思う。というのは、おそらく山猫は勝村と出会うまで孤独な男だったのではないかと考えられるからだ。勝村には人と人との縁をつなぐ力があり、自然と人が集まってくる。このシリーズは、一人のヒーローを描くと同時に、街の片隅でゆるやかな絆が生まれていく物語でもあるのだ。

 とはいえ、山猫の周囲にどれだけの人が集まろうとも、山猫が山猫である限り、そこに危険な香りが消えることはないだろう。上辺だけの正義を疑い、泥棒の「ついで」に悪を討つ。それが山猫だからだ。最新作『月下の三猿』は、そんなへそ曲がりな怪盗探偵の活躍がたっぷり楽しめるエンターテインメントである。

KADOKAWA 本の旅人
2016年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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