一方的なイメージで報じられることが多い「神社と政治」 その多様な関係性を解き明かす

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神社と政治

『神社と政治』

著者
小林 正弥 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784040820958
発売日
2016/09/10
価格
968円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「神社と政治」の多様な関係性を示し来し方行く末を考える

[レビュアー] 小林正弥(千葉大学教授)

 今年に入って「神社と政治」というテーマがにわかに注目されるようになっている。初詣の神社の境内に改憲署名のブースが出されていたり、神社界が大きく関わっている日本会議が注目されるようになったり……。一方的なイメージで報じられることが多いが、調べるにつれ、実際には神社の考え方や政治との関わり方は多様であることがわかってきた。神道の伝統の中には原発・安保法・TPPといった現下の政治的大問題に関しても、政権とは異なった見方が存在するのである。

 神社や神道については、知っているようであまり知らない人が多いのではないだろうか。神道には教祖や教典がない。そもそも宗教なのだろうか? それとも習俗や道徳なのだろうか?

 そこで神道の基本的知識を改めて確認しながら、家族や地域、国民、さらに人類という4層について神社や神道の来し方行く末を本書では考察した。対立する考え方を公正に描き出すために、私は著名な神職や神道研究者へのインタビューを行った。神道関連の学会長などを務められている薗田稔宮司をはじめ、小野貴嗣宮司、千勝良朗宮司、鎌田東二教授、藤本頼生准教授の5人だ。

 国家神道は戦争に人々を動員するために使われたから、敗戦によって神社は国家と分離させられて神社本庁が作られた。昭和60年代までは國學院大学と隣接する建物にあってこの二つは関係が密接だった。薗田稔京都大学名誉教授をはじめ、対談したすべての方々が國學院大学出身か、そこで教鞭を執られたことがある。

 終戦後の代表的な教授だった民俗学者の折口信夫は、神社が天皇制と離れて人類教というような宗教になることを提案したが、神社本庁はそれを退けて国家との公的関係を一定程度は回復することを目指して政治活動を開始した。

それとは対極的な立場と明言されたのは鎌田東二教授だ。とはいえ大学時代の恩師は、神社本庁の「生き方」についての綱領などの起草者だったという。

 取材に行った時偶然に國學院のキャンパス内の神殿の前で、神社本庁にも勤務経験のある藤本頼生准教授と初めて出会い、すぐにお話を伺うことができた。すでに他の研究者たちからインタビューのために連絡することを勧められていたのだが、神社についての本の取材で神社の前で会うとは、まさに天の配剤とでも思いたくなった。

 千勝良朗宮司からは期せずして、今の千勝神社の建立に、角川書店の創業者である角川源義が協力したことを伺った。父上の千勝重次(元國學院大学文学部教授)は、折口信夫(歌人としては釈迢空)の愛弟子で歌人だった。

 角川は折口の作品に出会って國學院大学予科に入学し、折口の短歌結社「鳥船」に入ってその指導を受けた。千勝重次はその國學院時代の級友であり、やはり「鳥船」同人で、角川書店の『短歌』創刊にも関わった。歌集『丘よりの風景』(1974)は角川書店の刊行だし、共著の評伝『釈迢空』(62)には角川が書評を書いている。

 この神社は崇敬者に幸せな生き方についての宗教的な教えを説いているので、「神道宗教」を主張した折口のビジョンが具体的に結実したことになる。

 神道界で有名な小野雅楽会の会長である小野貴嗣・東京都神社庁長にも会いに行ったが、あとで調べたところ、実は47都道府県の各神社庁で唯一ホームページにおいて改憲を掲げているのが東京都神社庁であり、小野宮司が神道政治連盟東京都本部長だった時にそのための宣言が採択されたのだった。本書の主題にとってまさにふさわしい方に会っていたことになる。

 このように錚々たる方々とお会いできたのはまさに幸運に恵まれたとしか思えない。

「神社と政治」というテーマに関しては、一般書がほとんどなく、いわば死角になっている。幸いな偶然が重なったこの本では、神社界の肉声もあわせ収めることによって、その実像と多様なビジョンを描き出すように努めたつもりだ。改憲議論が熱を帯びてくる中で、読者の一助になれば幸いである。

 ◇角川新書◇

KADOKAWA 本の旅人
2016年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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