“多才すぎる男”荒木一郎のやたら分厚いインタビュー集!

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喧嘩っ早くて口が悪い!面白さ無類のインタビュー集

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 多才すぎる男・荒木一郎の音楽家&俳優&小説家活動を掘り下げた、やたら分厚いインタビュー集。気が弱くて育ちの良さそうな柄本佑似の外見なのに、荒木一郎はとにかく生意気だし喧嘩っ早いし口が悪い。それがそのまま活字化されているから、とんでもなく面白い一冊である。

 中学生のとき、近所の女の子たちを使って自宅にストリップ劇場を作った話に始まり、役者になれば「つまらないから書き直す。やってる俺たちがつまらなく見えちゃうから。俺は出てるから責任があるんだ」との理由で19歳にして台本を書き直したりの無茶を繰り返し、歌手として紅白に出場するぐらいまでになっても「歌手っていうのは面白くも何ともないじゃん」と断言。その後、強制猥褻事件で逮捕され、処分保留ながらテレビ各局から干されることになるんだが、そんなタイミングで『木枯し紋次郎』に出演しても「撮影に行って、そこで大ゲンカになるんだよ。助監督ぶん殴って、それで紋次郎を撮り終わったあとに、また干された」りするから凶悪なのだ!

 本人も「俺は不良というか、すぐにケンカするじゃない」「もうちょっと僕が謙虚にやってれば、日本を代表するスターになれたかもしれないけれどもね(笑)」と言ってるけど、ホントそれ! この本で語られている演技論を読むだけでも、かなりの才能の持ち主だとわかるのである。

 なお、『仁義なき戦い』を「広島ロケが怖い」との理由で降板し、代役の川谷拓三がブレイクしたのは有名だが、それも強制猥褻事件によって「神経症」=「閉所恐怖症」となり、「飛行機に乗れないとか、新幹線に乗れないとか、高速道路がダメとかが、始まるわけですよ。家から半径五〇〇メートルの範囲を出られない」からだったことも判明。

 80年代以降、表舞台から姿を消したのでインタビューもその辺りで終わっているんだが、どうせならその後の手品師活動&アムウェイ活動のことも掘り下げて欲しかった!

新潮社 週刊新潮
2016年11月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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