大根仁は 『ザ・ファブル』が ヤンマガ不良漫画史に残る大傑作になると確信している

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大根仁は 『ザ・ファブル』が ヤンマガ不良漫画史に残る大傑作になると確信している

[レビュアー] 大根仁(映像ディレクター)

大根仁

 メジャー出版社のほとんどが「ヤング」が冠についた青年漫画誌を出版しているが、どれもそれぞれカラーがある。ヤングマガジン(以下ヤンマガ)のカラーといえばヤンキー色が強いことだろう。オレは創刊号からヤンマガを読んでいるが、1​9​7​0年代後半〜80年代前半にかけての校内暴力の多発、暴走族ブームの流れで「ヤンキーカルチャー」が中高生世代に定着したころ、『ビー・バップ・ハイスクール』の連載が始まった(83年)。以降、ヤンマガでは『工業哀歌バレーボーイズ』『ゴリラーマン』『シャコタン☆ブギ』『新宿スワン』など、ヤンキー及びヤンキーから派生した不良系漫画が人気を博してきたが、他の青年漫画誌と比較すると、ギャグやポップさが特徴だと思う。南勝久が、大阪の走り屋の抗争を描いた『ナニワトモアレ』がヤンマガに登場したのは、2​0​0​0年のことだった。連載当初は、それまでのヤンマガ系ヤンキー漫画に比べると、やや土着的というか、ヤンマガというよりはヤングチャンピオン的なストレートな不良漫画のように感じたが、関西弁のやり取りやクールな暴力描写は、やはりヤンマガっぽかった。タイトルを『なにわ友あれ』に変えての連載14年、単行本59巻(1部・2部)発行は、00年代以降のヤンマガ不良漫画の代表格と言ってもよいだろう。驚くべくは『ナニトモ』『なに友』は南勝久の処女作であるということだが、その南勝久が14年から連載を開始したのが、デビュー14年目にしての2作目『ザ・ファブル』である。あらすじは【ファブル(寓話)と呼ばれる天才殺し屋は、組織の命令により大阪で1年間〝一般人〟として過ごすことを命じられる。しかしファブルの存在を不審に思う大阪ヤクザたちの思惑に嵌められ……】というものなのだが、これが滅法面白い。主人公・ファブル(仮名・佐藤)のキャラクター造形はこれまで描かれてきた〝殺し屋像〟とは一線も二線も画す。その掴みどころの無さはおよそ漫画の主人公とは思えぬほどだが、冷淡な殺し屋から〝一般人〟として徐々に感情が芽生えていく過程の描写が実に上手い。スローテンポな物語の進み方は『ナニトモ』と変わらないが、命のやり取りが加わったことによって、オフビートな緊張感に満ちている。ファブルにまとわりつく大阪ヤクザたちは皆、ベタなキャラクターだが、南勝久最大の特徴ともいえる〝空虚感〟が漫画全体を覆っているので、物語自体は熱いのにどこか冷たい。さらにお色気や現代社会の世相を漂わせることで〝ヤンマガ不良漫画〟として成立しているのが素晴らしい。『ナニトモ』は南勝久自身の不良体験をもとに描かれたものらしいが、とすればこの『ザ・ファブル』は、創作者としての南勝久が初めて開眼し、漫画家としての真価が問われる作品なのではないだろうか。『なに友』終了からわずか4ヶ月で本作の連載を始めたことからも、南勝久の相当な自信を感じるが、おそらくヤンマガ不良漫画史上に刻まれる大傑作となることを、オレは確信している。

 ***

『ザ・ファブル』
鈍色の愛銃ナイトホークを手に、どんな敵も鮮やかに葬り去る“殺しの天才”ファブル。しかし、ボスの命令で1年間、「一般人」として過ごすハメに――。『ヤングマガジン』で2014年より連載開始、単行本は現在、第6巻まで発刊されている。講談社ヤンマガKCスペシャル。610円

太田出版 ケトル
VOL.32 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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