堀部篤史は「本とその周辺をめぐる6か月とちょっとの旅」の旅路が本になったことをご報告します

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堀部篤史は「本とその周辺をめぐる6か月とちょっとの旅」の旅路が本になったことをご報告します

[レビュアー] 堀部篤史(「誠光社」店主)

堀部篤史

 昨年の6月から年末にかけて、以前勤めていた書店、恵文社一乗寺店にて、講師に小説家の福永信さんとブックデザイナーの仲村健太郎さんを迎え、小説を書くワークショップ「本とその周辺をめぐる6か月とちょっとの旅」を企画、開催した。
 なぜライティングワークショップにデザイナーさんが講師として参加するのか。それはこのワークショップが、短編小説を書き上げ、参加者によるオムニバス作品集として編集、刊行し、販売するまでを含めたものだからだ。小説の良し悪しというものは、文法やテクニカルな細部を抜きにすれば限りなく主観的なものだ。東野圭吾の愛読者と、セリーヌの信奉者では理想とすべき作品像は大きく異なるだろう。小説家を講師に迎える以上、その作家が考える「よい小説」に参加者の作品を修正し、導く以外にワークショップのゴールは設定できない。もしその結果をよしとすれば、小説の多様性を否定することになる。世界中の小説を扱い、そのいずれもの良さを理解し、紹介する立場である本屋としてはそのような偏見は許されない。だからそもそもライティングワークショップというものに猜疑心すらあったのだ。
 しかし、福永信さんと文字通り出会った(声をかけたのは恵文社一乗寺店からほど近い左京区の個性派書店、ガケ書房のクロージングパーティーだった)ことで、もしかすると作品の良し悪しを焦点としない企画が出来るのではないか、ならば取り組もうという発想が生まれた。
 現代美術に精通し、常に小説の外側を意識したメタフィクショナルな作品を発表し続けてきた福永さんにお願いすれば、小説の良し悪しではなく、小説を書くこと自体を考えるワークショップができるはずだ。
 募集とほぼ同日に18名の定員は埋まり、迎えた初日。福永さんはデザイナーの仲村さんと二人で登壇した。初めて会場に訪れた参加者に「本屋」というお題を出し、その場で2​0​0文字の掌編を書くように指示、出来上がった参加者の作品はライブで縦組みにレイアウトされ、すぐさま執筆者たちに配布された。自分の書いたものがWordのようなテキストファイルから離れて、プロの文字組みで活字になり印刷されることを経験する人は少ない。たったこれだけのことで参加者たちは執筆者としての自覚を得て、その拙い掌編は立派な小説の種となった。企画者としてはこの取り組みに応えるため、スポンサーとなり、終了後かならず本の形にまとめて刊行することを約束した。
 6か月間のワークショップが終わり、そこからさらに半年をかけてブラッシュアップされ、最終的に残った10の短編が先日ようやく形になった。各短編には本ワークショップの参加者でもあったイラストレーター・イケダマメさんの絵が添えられ、ハードカバークロス装、箔押しに帯付きで1​0​0​0円。この値段もワークショップ初期段階で決定していた。文章の値段もふくめて小説を書く、ということなのだ。

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『本とその周辺をめぐる、6か月とちょっとの旅』
小説を書く、小説じゃない文章を書く。本にして、それを売る。本が生まれるところから、読者の手に届くまでを経験してみようというワークショップ。小説家の福永信とブックデザイナーの仲村健太郎を講師に迎え、昨年6月から12月まで恵文社一乗寺店で開催された。書籍となった『本とその周辺をめぐる6か月とちょっとの旅』は1080円。誠光社

太田出版 ケトル
VOL.32 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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