北関東にある集落の家々の壁に奇妙な絵が描かれていると話題になる。描いているのは、奇抜さとは無縁そうな男「伊苅」。興味をひかれたノンフィクションライターが現地で取材に入るが…。
平凡に見える男「伊苅」の来し方を、さまざまな場面から照らしていく。子供時代、恋人との出会い、会社勤めのころ。最初はつかみどころのなかった「伊苅」の姿が徐々に現れてきて、読み終わったときもう一度、最初から読みたくなる。
抑えた筆致ゆえに「伊苅」の来し方すべてが重く響くが、中でも重病の子を持つ親の苦しみはこたえる。(文芸春秋・1500円+税)
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2016年11月13日 掲載
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