『すべての仕事は「問い」からはじまる』
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ビジネスの問題解決はすべて「問い」からはじまる
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『すべての仕事は「問い」からはじまる たった1秒の「問題解決思考」』(大嶋祥誉著、SBクリエイティブ)の著者は、マッキンゼー・アンド・カンパニーで実績を残したのち、コーチングやコンサルティングの仕事を通じ、さまざまなプロジェクトにおける問題解決を手がけてきたという人物。そんなキャリアに基づいて実感するのは、「問い」の重要性なのだそうです。
忙しい日常の中では、どうしても目の前のやるべきことに追われます。
本質的なことや、自分に本当に大事なことほど、後回しになりがちになります。
そのままでは、頑張っているのにこれでいいのか、このまま進めていいのかと「モヤモヤ」が消えません。
仕事でも人生でも、今の状況を変えたいときは、
「問い」を使うことによって、状況を変えることができます。(「はじめに」より)
事実、著者が問題解決の現場でやってきたのも、「問うこと」だといいます。
「それは本当に大事なことですか?」
「なぜ大事だと思うのですか?」
「大事にすることでなにが生まれますか?」
(「はじめに」より)
このように「問い」をすることで、整理できずにどうしていいかわからなかったモヤモヤを解消し、やりたいことや、進むべき方向を明らかにするということ。
でも、そもそも「問い」とはなんなのでしょうか? その本質を探るべく、第2章「良い問いとは何か?」に焦点を当ててみます。
優れた問いには「型」がある
優れた問いには「型」があるのだと著者は主張します。そして、どんな問いにも共通する「型」は
1. 問いには1行
2. 自分の判断を入れない
3. ポジティブにする
4. 視座を高くする
(59ページより)
ということなのだそうです。
まずは「問いは1行」について。これは、問いは「短く本質に迫るもの」でなくてはならないということ。文章にしたとき何行にもなるようなものは「問い」ではないというのです。
私たちの脳は、シンプルな「問い」であるほど、多くのシナプス(脳の神経細胞の結合部)が活発に働いて、思わぬ思考のジャンプを呼び起こす性質を持っているのだと著者は解説しています。思考のジャンプが起こると、自分を無意識に縛ってきた「常識」や「こうあらねばならない」といった前提条件が外れ、自由に考えを広げることができるというのです。
「自分の判断を入れない」とは、相手が反発したくなるような要素を排除するということ。「判断(ジャッジ)」や「誘導」が入ってしまうと、問われた相手は反発したくなるものだというわけです。だからこそ、問われた人に「スッと入って」きて、モヤッとしていたものを晴らし、前向きなアクションを起こしたくなるような問いことが重要だということ。
「ポジティブにする」ことの重要性をいい表す要因として著者が引き合いに出しているのは、「PMA思考」。Positive mental attitudeの略で、ポジティブなマインドセットを意味するのだそうです。「どうしてダメなのか」は過去に向かう問いですが、「どうしたらいいだろう」は未来に向かう問い。つまり後者を心がけるべきだというのです。
そして「視座を高くする」ということ。視座は視点や視野とも似ていますが、視点とは「どこを見ているか」で、視野は「どこまでの範囲を見ているか」。一方、視座とは、より高いレイヤー(階層)にあり、視点や視野を含め「どんな立場から見ているか」を指すのだそうです。現実の自分がどんな立場であっても、「高い視座」を持ち、いろいろな立場から物事を問うことができれば、その場に流されることなく、広い視野から正しい判断ができるようになるといいます。(59ページより)
よい問いの4つの方向
「問い」には「型」だけでなく、「方向性」があると著者はいいます。つまり、「どこへ向けて問うか」ということ。いくら型のよい問いであっても、問う方向がおかしければ、よい答えは出てこないというのです。そして「よい問い」はおおむね、次の4つの方向性のうちのいずれかを持っているといいます。
1. 根本を問う → 問題の核心をつく
たとえば部屋の植物の鉢から水が漏れていたとすれば、当然ながら水漏れをなんとかしなければなりません。しかし、「水漏れしている場所はどこ?」と問いを立てただけでは問題は限定的。もし、他にも鉢が傷んでいる箇所があれば、またそこから水が漏れるかもしれないわけです。
しかし、「そもそも、なぜ水漏れが発生するのだろう?」という根本から問いを立ててみると、「実はそれほど水やりをしなくてもいい植物なのに、水をやりすぎていたことが原因だった」と気づくかもしれません。これは、仕事での問題解決などに役立つ思考だといいます。
2. 「未来志向」の問いである → 「あるべき姿」に近づく
「未来志向」の問いとは、過去の延長線上で考えるのではなく、「そもそも、どんな未来を達成したいのか」という視点から問うもの。過去の延長線上から考えたのでは、発想が広がらず、同じことを繰り返すだけ。しかし、本来あるべき姿から逆算して考えることで、いま本当にやるべきことが見えて来ることに。前提条件が外れることにもなるので、「ゼロ思考」で物事を考えやすくなるといいます。
「ゼロ思考」とは、あらゆる可能性から考えるということ。未来のあるべき姿から逆算し、さまざまな問いを立てれば、「現状」という枠から外れて「いま、なにをすればいいか」が具体的に見えてくるというのです。
3. 枠を外す → 「本当は?」で、可能性を広げる
自分にとって大事な問題であればあるほど、人はいろいろと余計なことを考えてしまうもの。そんなとき、「自分が本当に大事にしたいことは?」という問いを立ててみると、思考の可能性が広がるといいます。
目の前の問題に対して「イエスかノーか」という問いで考えるよりも、「自分が本当に大事にしたいことは?」という、より大きな問いで考えるほうが、自分の枠を外して可能性を広げることにつながるという考え方。これは仕事だけでなく、人生全般において、大きな視点で物事を考えるために必要な問いだと著者はいいます。
4. 「本当の声」をインスパイアする → 相手を動かす
なにかで悩んでいる人に対し、「そもそも、自分自身にとってなにが本当に大事なの?」という問いを投げかけると、相手がハッとすることがよくあるといいます。なぜなら問われた人は、自分の内部から出てきた「本当の声」に対し、忘れていたものを思い出したかのようになるから。
ここで大事なのは、問いをした側は「答え」を口にしていないということ。あくまで問われた側が自分で気づくからこそ、「ハッ」としてその気になるというわけです。このように、本質に迫る優れた問いは、相手をインスパイア(触発)させ、行動を起こさせるものなのだそうです。(73ページより)
著者が主張するとおり、「問い」は客観性を持つうえでとても重要なポイント。よりよい思考力を身につけるために、本書を参考にして見てはいかがでしょうか?
(印南敦史)