[本の森 歴史・時代]『戦国24時 さいごの刻』木下昌輝

レビュー

6
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戦国24時 さいごの刻

『戦国24時 さいごの刻』

著者
木下昌輝 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911171
発売日
2016/09/14
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『戦国24時 さいごの刻』木下昌輝

[レビュアー] 田口幹人(書店員)

 戦国時代には、運命を分けた節目と呼べる出来事がたくさんあった。その節目を、戦国時代を生き抜き、名を残した武将たちの最期に注目して描いたのが、木下昌輝戦国24時 さいごの刻(とき)』(光文社)だ。本書は、戦国の世を代表する六人の武将の最小の歴史である最期の一日に焦点を定めて書かれた六つの物語からなる連作短編集である。

 史実と創作を織り交ぜ、読む者を物語の世界に引き込む著者には、創作を越えた史実に対する仮説が存在するのだろう。その仮説を、ミステリー要素として取り入れ、さらに24時間に物語の幅を設定したことで、残された時の経過を読者に連想させる、史実を下地としたどんでん返しを成立させた。

 本書には、「大坂夏の陣で、豊臣秀頼が死ぬまでの24時間」「伊達政宗が父、輝宗を射殺するまでの24時間」「桶狭間にて、今川義元が討ち死にするまでの24時間」「武田信玄の家臣、山本勘助戦死までの24時間」「将軍足利義輝、御所での闘死までの24時間」そして、「戦国の世に幕を引いた、徳川家康最期の24時間」という歴史の大事に至るまでの計6日間が収められている。中には、荒唐無稽な設定もあるが、忠実に史実を織り込む隙間にそれを挟み込むところに、著者のしたたかさがうかがえる。

 それが、もっとも現れていたのが、豊臣秀頼最期の24時間だろう。幼少期、「お拾い様」と呼ばれていた秀頼と秀頼を拾う役を引き受けた松浦という存在と淀殿の愚策を結びつけた結末の斬新さに、どんでん返し以上の衝撃を受けた。

 剣豪将軍として知られる足利義輝の最期の一日を描いた「公方様の一ノ太刀」では、塚原卜伝を登場させ、太刀筋と鹿島新当流の免許皆伝の逸話を挟み込み、剣豪小説ファンを鷲づかみにし、伊達政宗を描いた「子よ、剽悍(ひょうかん)なれ」では、歴史ファンの共通の疑問であろう、「伊達政宗は右目が見えないという状況で、どのようにして鉄砲を操ったのか?」という疑問に一つの仮説で答えてみせた。

 歴史時代小説は、史実があり最初からネタバレしているのが宿命であるが、それを上書きさえしてみせる仮説と創作の面白さを実感する事が出来る。

 著者の作品は、一作ごとに今までの時代小説という概念を覆そうとしている気がしている。前作『天下一の軽口男』(幻冬舎)では笑いで、本書では時間設定で表現するミステリ要素という遊びで。次作は、何に挑んでくるのか楽しみで仕方ない。

新潮社 小説新潮
2016年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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