角川映画四〇周年の今 初めて語られる秘密

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いつかギラギラする日

『いつかギラギラする日』

著者
角川 春樹 [著]/清水 節 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758412957
発売日
2016/10/03
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

角川映画四〇周年の今 初めて語られる秘密

[レビュアー] 鈴木裕也(ライター)

 角川春樹という人物を誤解している人はきっと多いと思う。しかも、たぶん印象はあまりよくないはずだ。「角川商法」と呼ばれた強引なビジネス手法や、コカイン密輸事件による逮捕・実刑は、この類い希な出版人・映画人の業績を歪めてしまった。業界の常識をぶち壊し、多くの“初めて”を実行することで新たな「常識」を作り出した“革命家”としての側面を忘れてはいけない。

 今では当たり前だが、文庫本に初めてカバーをかけて売ったのが角川春樹だった。多くのメディアが後追いした“メディアミックス”という手法を確立したのも、映画製作における委員会方式を本格的に始めたのも、映画の宣伝にテレビCMを大規模に用いたのも、すべてこの革命家が始めたことだ。

 それらの革命は形だけのものでは決してなく、結果が伴っている。初めて手がけた映画「犬神家の一族」は配収一五億円超(現在の興行収入に換算すると約三〇億円)。文庫本「犬神家の一族」は二〇〇万部を超える大ベストセラーになった。こうした手法で、売り上げ一八億円、経常利益五〇〇〇万円だった角川書店を、八年後に売り上げ一三〇億円、経常利益二五億円の出版社に成長させてもいる。

 本書は、そうやって七〇本以上の映画を製作してきた映画人・角川春樹の激動の映画史である。薬師丸ひろ子が「セーラー服と機関銃」のCM映像で、頬を伝わる血をものともせず「カイ……カン」と言うシーンが、アクシデントで怪我して本当に流れた血だったことや、「人間の証明」に主演した松田優作との一対一の対決など、驚きの裏話も満載。

 たった一人の男が業界を次々と変革していく様は、読んでいて勇気が湧いてくる。前例をぶち壊す勝負に出た角川春樹が勝ち続けた裏には、しっかりした理論がある。勝負に勝つための理論よりも勝負しないための理屈を考えてばかりいる出版・映画業界人は、今こそ彼に学ぶべきものがあるのではないか。

新潮社 新潮45
2016年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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