『まことの華姫』
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人形遣いと姫様人形が市井の謎を解く『まことの華姫』畠中恵
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
『しゃばけ』シリーズで第1回吉川英治文庫賞を受賞した畠中恵が、また魅力的な主人公を作り出した。お華という大きな木偶の姫様人形である。相方は人形遣いの芸人、月草。彼がお華を操り、口を動かさずに声色を変えて会話しているように見せかける。現代で言う「腹話術」だ。いつの頃からか、人々が噂をするようになる。――“まことの華姫”は真実を語る――
時は江戸中期。江戸両国では、今日も様々な見世物小屋が軒を連ねている。ここを仕切るのは地回りの頭、山越親分だ。娘のお夏は一三歳。つい先ごろ、姉のおそのを川への転落事故で亡くしている。だがお夏はどうにも合点がいかない。もしかすると自死で、その原因は父親なのではないか。
月草とお華、お夏が仲良くなるきっかけは、そんな疑問を解消することだった。気の弱そうな月草が語るのに、なぜかお華はおきゃんで鼻っ柱が強い。言いたいことはお華にまかせ、月草はそっと探索をする。そんな風変わりな捕物帳がテンポよく進む。
元は腕利きの人形職人だったという月草。ある事故で腕が利かなくなり、芸人に転身した。最後に作ったのがお華だ。中を覗くと真実が聞こえる井戸から見つかった水を固めたような玉二つを目玉にしているという。そんな妖しい経緯と、美しい姿の人形目当てに「お華追い」というおっかけのファンまで出る始末。事件を一つ解決するたびに、お華の評判は上がっていく。
人形浄瑠璃は、いつの間にか人形遣いの顔がまったく気にならなくなる。そこまでになると生きているも同然。月草とお華のコンビは江戸の物語をたくさん語ってくれそうだ。