「月9」の“あの頃”が目に沁みる一冊
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
変な新書なんです。500頁近い分厚さも税込み1400円超のお値段も異例なら、タイトルの短さやサブタイトルと内容の無関係さも尋常じゃない。小首を傾げざるをえない誤字や表現が残ってるし、そもそも著者の中川右介は映画や歌舞伎やクラシックの人だったはずだし。
にもかかわらず、読めちゃう新書なんです、『月9 101のラブストーリー』。それもぐいぐい。
フジ系月曜夜9時からの連ドラ枠といや、最近はフジの、ドラマ全般の、TV総体の凋落の代名詞になっちゃってるわけですが、それはかつてのフジ、ドラマ、TV、さらにはニッポンの隆盛の象徴だったから。
来年の4月で30年になる名物枠の歴史のうち、この本が扱うのはスタート当初の1987年から「君の瞳をタイホする!」「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」「ひとつ屋根の下」を経て「ロングバケーション」あたりまでの10年分。それでも製作の裏からストーリー、馬鹿ウケっぷりまでが網羅されているのは圧巻で、数字の取れなかった作品が無視されてないのも泣ける。
のみならず、月9ドラマの流れと同時進行で、当時の政治経済社会やらSMAPの勃興やらフジサンケイの転変やらも紹介されてて、“あの頃”が怒涛のテンコ盛り。昭和は終わってバブルは弾けたけれど、まだまだイケる―そういう幻想を月9が、ドラマが、TVが支えられていた時代の幸せっぷりが目に沁みます。