火付盗賊改役を描く新たな収穫!

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書籍情報:openBD

火付盗賊改役を描く新たな収穫!

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 かつて時代物で火付盗賊改役といえば、町方の敵役、ひどいものになると悪役として登場したものだった。

 そのイメージを一変させたのが、実在の火盗改役の長官・長谷川平蔵の活躍を描いた池波正太郎の『鬼平犯科帳』(文春文庫)であるのは、衆目の一致するところだろう。

 池波の死後も、逢坂剛が自身の〈長谷川平蔵〉シリーズを書き継ぎ、これまで『平蔵の首』(文春文庫)、『平蔵狩り』(同、吉川英治文学賞受賞)と続き、ついこのあいだ最新刊『闇の平蔵』(文藝春秋)が刊行されたばかりである。

 一方、長谷川平蔵以外の火盗改役の活躍を描く作品も登場し、鳴神響一の〈影の火盗犯科帳〉シリーズ(ハルキ文庫)は、その最も優れた収穫といわねばなるまい。

 此之度、第一弾に次いで第二弾『忍びの覚悟』が刊行され、これがなかなかの力作である。

 題名に“影の火盗”とあるため、キワモノではないかと思う方がいたらとんでもない間違いである。このシリーズの火盗改役の長官は山岡五郎作景之。代々、山岡家に仕える甲賀忍びの集団を抱えており、この面々が「影火盗組」として活躍する。敢えて忍びを登場させたのは、池波作品における密偵との差別化を図るためではないのか。

 今回の事件は、歳の市でにぎわう浅草寺の大鳥居に愛宕下日影町の刀剣商・清真堂の勘兵衛が逆さ吊りにされ、無残な屍体となって発見されるのが発端である。

 本来なら寺社方の扱う事件だが、これに続いて伊達家上屋敷で付け火が起こり、その後も相次いで伊達家ゆかりの寺社が炎上する事件が続く。こうなると火盗の出番だ。

 五郎作は、伊達家に秘められた怨念の連鎖を断つべく、「影火盗組」を動かすことに―。

 そして題名にある『忍びの覚悟』とは、「影火盗組」の小姓頭・芥川光之進が忍びの修行時代、己のミスで妹を殺してしまったというトラウマをどう乗り越えるかを、意味している。

 プロット、文体ともに上出来の一巻といえよう。

新潮社 週刊新潮
2016年12月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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